《凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ〜TIPS€ 俺だけダンジョン攻略のヒントが聞こえるのに難易度がハードモード過ぎる件について〜【書籍化決定 2023年】》12話 営業プレゼン國會首級チェケラッチョ
使い込まれた牛革の手帳を貴方は開いた。
~多賀慎二の日記・6月21日~
【ホッカイドウとオキナワの領土奪還はまた失敗した。サキモリの人員はすでに枯渇。アカデミーの學生すら前線に送り込まれなければならない最悪の狀態だ】
【寮の調査では、各地域の霊脈に差した""の排除、それのみがあの"樹木"を枯れさせる事が出來るらしい】
【4月における神種による首都、及び政令指定都市への同時攻撃において、我々は既に國家としての武力裁を保てなくなってしまっている】
【アメリカとあの神の王がわした盟約により、現在のところ人類は生存権を辛うじて維持している。……だがそんなものは牧場主が家畜の質を良くするために放牧したりする工夫と何も変わらない】
【奴らは人を喰う】
【何が神種、何が神だ。人喰いの化けが人の形を真似たにすぎない、化けだ】
【だが、その化けはあまりにも強く、そして狡猾だ。奴らが空気に混ぜた酔いに似た神が人を冒している。恐ろしい事だ。それは我々はしづつ、神種の事を恐れなくなってしまっている】
ページにはのようなシミが殘っている。
筆圧も。ここからさらに押し付けるような太さとさに。
【神種は人類を魅了しつつある】
【奴らがバベル島から、――バベルの大からあふれる酔いに神を混ぜた】
【その神の影響は今も、世界中に広がりつつある。今こうしている間にも人々の全意識は神種を恐れるべき天敵から、すべき上位種と刷り込まれつつある】
【ふざけるな】
【……私自、こうして奴らの脅威を定期的に見つめなおし再確認しないと、敵意が麻痺していく。なんと狡猾な狩人。なんという悪辣。一部の宗教団はすでに、神種を祭り上げカルト化しているとも聞く。公安が対応中だが、すでに殉職者も出てしまった】
【このままではまずい。奴らは決して人類を対等な存在、ましてや共存に値する知とはみていない。――家畜を見つめる目だ、奴らは必ず人類の世界を滅ぼすだろう】
【だめだ、そんな事はさせない、私は、彼との約束を履行する義務がある。この國を守る為に多くの人を傷つけ裏切ってきた】
【その為に行うべきは大きく、2つ】
【4月20日、八島作戦の失(・)敗(・)により、ニホンの各政令指定都市には8の神種が鎮座している。まずはこの國土に巣食う害獣の処理】
【そして、寮が見つけ出した、かの號級を超える力。ホッカイドウとオキナワに在ると言われる”神”の回収】
【神殺しの準備――だが、その為には結局、またサキモリの多くを犠牲にしなければならないだろう】
【ホッカイドウとオキナワ。2(・)0(・)2(・)8(・)年(・)1(・)2(・)月(・)に起きた北南事変の舞臺の攻略】
【まずは、ホッカイドウの全域を縄張りとする怪種”アヌビスの猟犬”、オキナワの全域を縄張りとする怪種”ブラッドシーサー”の討伐。これをなんとしても、人類の力だけで達するのだ】
【ヒロシマを征服したあの神種の渉になど斷じて乗るべきではない。だが、今回の遠征の失敗はいずれあの神種、ゼウスを騙る男に伝わるだろう。これは予だ。人類が神種の手を借りれば、その時點で全部終わる】
【國民の心はすでに政府から離れつつあるのをじる。ヒトによる不完全な政よりも、超越者による管理を求める者もなくない。だが、それは人がこの世界の霊長の座を神に明け渡すのと同義。そしてこの星の霊長を名乗る種族が、他の生命をどのように扱うのか。――我々はすでにその答えを知っているはずなのに】
【私は、もしかしたらすでに失敗しているのかもしれない、だとしたらどこで?】
【八島作戦に失敗した所か?】
【ホッカイドウ、オキナワの二大怪種の討伐に失敗した所か? それとも――】
【イズ王國で、”味山只人”を封印した事か?】
【――いや、よそう。あれは最善だった。現に、今、彼は眠り続けている。國家は安定して……いや、安定? 神種に実効支配された地域があるこの狀況を?】
【だが、今更、彼を開放した所でどうなる? あの男は、敵を決して許さない】
【敵対行為を以て彼のイズ王國解放の偉業に答えた私はきっと彼に滅ぼされる。今は、神種以外の敵を抱えるわけにはいかない】
【北南事変の記憶が、そして、前の世界の記憶が私から”味山只人”への恐怖を固定させる】
【私は、彼が怖い。だが、同時に思う事がある】
【もしも、あの日、3月の殺を防げていたら?】
【もしも、味山只人があの時、4月20日の八島作戦において存在していたら?】
【誰しもが頭をたれ。膝をつき、神の威にひれ伏すあの景の中に、あの男がいたら?】
【……これを読んでいる”私”よ。もしかしたら私はこれから最悪の未來を歩むかもしれない】
【故にそう、ここに私の失敗の軌跡を】
【そして、準備をしようと思う】
【最悪の未來にふさわしい、最悪の鬼札の準備を】
【だから、あとは任せたよ】
【3月、北緯35度40分33.2秒 東経139度44分41.9秒】
手帳のページをあなたは閉じる。
しばかり、息を吸う。吐く。
かち、かち。時計の針は止まらない。
ピコ。
端末がメッセージを領する。
【オキナワ到著、アレフ1、アレフ2、アレフ3.――作戦開始】
たったそれだけのメッセージ。
あなたは目をつむり、祈る。
願わくば、この敗北者の苦しみが糧になりますように。
その労苦が、しでも報われますように。
あなたは、端末をしまい込み、部屋を後にする。
「ああ、”私”。安心して九段にてまどろむといい。だが、いずれ愚癡ぐらいは吐かせてもらう」
ぴこん。
またメッセージ。
端末。
【よお、総理。演出とプレゼンの準備はばっちりだ、場を暖めておいてくれよ】
あなたは、端末をしまい込み、部屋を後にする。
――仕事の時間だ。
胃が、重たくなる類の。
◇◇◇◇
~2032年3月、國會議事堂にて~
國會、常會。
本來ならば法案審議に向けての議論が繰り広げられるこの期間。
gあ
しかしこの日の國會議事堂で、法案についての議論は一切わされていない。
「これは我が國始まって以來の恐ろしい出來事ですよ! 総理! あなたはご自が何をしたか、ご理解されているのですか?」
激しい議論。
いや追及が議員から繰り出される。
「全くもって仰る通りかと存じます」
起立し、それに応える小男。
青筋立ててキレ続ける議員とは対象的。
朝の湖のように穏やかで揺らぎのない表で多賀影史は応える。
「質問に答えてください、総理! 3日前にあなた自がされた事ですよ!! ニホン史上前代未聞です!!!」
「はい、前例のない事だと自覚しております」
「國際社會にどう説明されるおつもりですか!? 國際指名手配犯の庇護!! これはニホンが國際犯罪に加擔していると取られてもおかしくない事態です! 説明を! 國民はね、こんなん、総理、納得できませんよ!!!」
「國民の皆様にはご納得いただけるまで説明責任を全うしたいと考えています」
金切り聲を上げる野黨議員達。
淡々と答えていく多賀。
國會が開かれてからいつもの景と言えば景だ。
だが、今日の剣幕は日常の比ではなかった。
「なんだよ、そんなの答えになってないよ!」
「総理! きちんと答えなさいよ!」
「この件に納得できない限り、法案審議なんてできるわけないでしょうが!!」
揺れる國會。
この日の國會中継はすでに視聴率、40パーセントを超える異例の事態だ。
これほどまでの関心、ヤジ、大騒ぎの原因はもちろん――。
「総理! 先日の件について説明を!! アレフチームとの同盟とはどういう事ですか!?」
2032年、3月。
突如、トーキョー地下に出現した、國際特別指名手配犯、”アレフチーム”。
彼らによるサキモリ、および自衛軍への攻撃。
総理邸への侵。
ニホン史上初総理大臣拐。トーキョータワーでの拉致。
そしてその全てが、多賀総理とアレフチームによる狂言、否、訓練だったとの事――。
「ふざけてるんですか!! 総理、國民をなめるのもね、大概にしてください!!」
「國際指名手配班との共同での、訓練!? アンタね、これ、本気で言っていたんですか?」
「アレフチームは犯罪者ですよ! ICPOから引き渡しの命令が出てると聞きましたが!」
「総理、貴方には説明責任がある! あなたのね! ふざけた行に一いくらの稅金が使われたと思ってんですか!」
「いくらなんでもね、常識がなさすぎるよ! これ世界中の笑い者、いやニホンという國の正當すら失うような真似ですよ!」
喧喧囂囂。
水を得た魚、鬼の首を取った、あらゆる表現が似合う勢いで反多賀閣の政治家達が言葉を投げつける。
代わりに多賀派の議員、味方と表現していい人間達は嵐が通り過ぎるの待つような顔で目をつむり続ける。
それもそうだ。
今回はいつもの國會での追及とは事が違いすぎる。
「前代未聞だって言ってんですよ!! 一國の総理大臣と國際指名手配されてる犯罪者が共謀して、國家を巻き込んだこんな騒ぎを起こすなんて!!」
ぐうの音も出ないとはこの事だ。
多賀は自分に向けられる數々の敵意の視線、聲をぼんやりと眺める。
何から何まで正論。
確かにありえない。
総理大臣が、國民を、政府をだますような大騒ぎ。
「――不信任決議の提出どころか、総理! あなた自に共謀罪の容疑がかけられてもおかしくないですよ!」
まあそうだろうな。
多賀はゆっくり、答弁にこたえつつ思う。
アレフチームは現在、世界首脳會議加盟國にすべてにおいて指定テロリスト集団として認定されている。
すでに先日の件は、世界の主要メディアにおいても大きく取り上げられた。
近日中に各國からはニホンに対しなんらかのアクションが求められるだろう。
すでにアメリカ合衆國からは呼び出しともいえる連絡が大使館を通じて屆いている。
まあ、答える気はさらさらないが。
「総理!! あなた、真剣に話を聞いてるんですか!?」
悲鳴のような金切り聲。
男差別をするつもりはさらさらないが、この聲は男には出せない類の聲だ。
多賀はまっすぐその聲を上げた議員を見つめる。
そろそろ、定刻が近い。
「もちろんです、議員に皆さまにおかれましては私の不徳の致すところ、本來であれば新たな法案審議に賭けなければいけないこの時間を使わせれしまい恐れるばかりであります」
「はあ!? なんですか!? その他人事のような態度は!? 國民はねえ! 怒ってますよ」
怒っているのはあなただろう。
元まで出てきた言葉を多賀は収める。
時計を確認。
定刻は、近い。
「総理、結局ね! あなたアレフチームとの関係はなんなんですか!? なんのつもりであのようなことを引き起こしたか説明をしてください」
「當職の職務を全うするための行です。しかし、やり方や伝え方にはもっとほかの道があったのではないかと反省しております」
多賀の返答に議員がさらなる金切り聲をあげる。
そしてまた次の追求。
勢いのあるある野黨の政治家だ。
「答えになってないですよ!! 総理!! いいですか! あなたのね、やり方おかしいんですよ!! 前のね、サキモリ法案もそうですよ! こんな戦力を持つような法律、ニホンが戦爭できるような國になれる法律もね! 世の中が変になるってタイミングで通したでしょう!? 今回も同じじゃないんですか!?」
「質問の意図がわかりかねます。簡潔にお願いします」
「今回の事件もね! この國會でなし崩しに通したい法案のために混を引き起こしたんじゃないかって事です! 八島法案!! これ! なんですか!?」
「憶測での質問には答えかねます。そしいぇ八島法案については事前に皆さまに関連部署を通じてお伝えした通りです、激化する怪種の出現への対応、先のイズ半島の神種による侵略に対応すべく――」
「そこですよ!! 怪種、神種ってね! 確かに世の中はし前より騒になってます、でも実際は全部なんとかなってきてるじゃないですか!」
「――」
多賀はめまいのような錯覚を覚える。
「イズ半島の件もね! あれ、政府の謀だっていう話もありますよ! 神種とかいう化けが一國の領土を占拠、住人は怪しいオカルトで支配してた? 総理! あのね、ふざけるなって話ですよ! こんなのどうやって信じろってんですか!?」
「――」
「怪種の件だってそうです! 未だに原因がわかってない! これはね、総理、あなたの責任ですよ! 探索者組合は國連の下部組織でしょう? ニホンが強く要請してないんですよ、探索者にはやくバベルの大でもなんでも行かせて、解決させてくださいよ! なんでニホンがね! こんな軍國主義のような法案通して、巻き込まれなきゃいけないんですか!」
「そ、そうだそうだ!! ニホンはこれ以上、バカげた戦爭まがいの行為をする必要はない!」
「サキモリとか言うのも本當に必要なんですか!? 他の國では前例がない組織ですよ! 指定探索者がやればいいじゃないですか! それかほかの國から指定探索者でも呼んで対応させなさいよ!」
「サキモリにだって金かかってるんですよ! あの人達ってなんか今、役に立ってんですか!?」
――ああ、味山君。まったく、君の言う通りだ。
サキモリは、この國を守りすぎた。
國民の代表としてこの場にいる政治家の認識が、この程度。
「そもそも、神種なんて本當にいるのかって聞いてんですよ!!」
かち。
時計が振する。
あらかじめ決めていてアラームのカウントが始まった。
「総理! 答えてくださいよ!! あのね、やっぱおかしいですって。こんなことを我々政治家がね! 議論するなんてさ!」
「おかしいとはつまり、どういう事でしょうか?」
「神種とか怪種の事ですよ!! こんなの我々の仕事じゃないでしょ!」
――守りすぎた。
耳が痛い。
多賀は今、改めてこの國の現狀を悟った。
「ホッカイドウとオキナワのあれも、天災でしょ? だったら、今政府がやるのは戦力の確保じゃなくて、それ以外への対応策じゃないんですか?」
のない反論。
「ていうか! サキモリ法案には、ホッカイドウ、オキナワの領土回復もありましたよね! その進捗まるで進んでないじゃないですか! 金の無駄使いですよ!」
現狀認識すら覚束ない政治家。
「総理、いつもの屁理屈でこの場を切り抜けるのは無理ですよ。あなたがあのような狂言まがいの事を行った理由が未だに説明されていない」
「……」
「なんですか、その態度は!? 真面目にお答えくださらない?」
「なぜ総理はあのような真似をしたのですか?」
「総理!! はっきり言ってね、アンタの政策はおかしいんですよ! 一何がしたいんですか!!」
「総理」
「総理」
「総理!!」
「「「「「説明を!!!!! 多賀総理!!!!」」」」
「「「「「「責任を取ってください、総理!!」」」」
すでにこの場は多賀個人を徹底的に追い込む場として立した。
議員達は大儀の元に聲を荒げる。
前代未聞の大事件を起こした指導者に対しての追求。
認められた権利と大儀、正しい事をしているという熱狂、酔いがすべてを飲み込む。
「総理、アレフチームを今度どのように扱うつもりですか!?」
「放送で宣言した通り、彼らとニホンは友好同盟関係にあります、必要であれば書面をわし調印するつもりであります」
「正気ですか!? 相手はテロリストですよ! 一何がしたいんですか!?」
「必要な事だからです」
一瞬の沈黙。
そして。
「ふざけるな!!!」
「テロリストとの共謀罪だぞ! わかってるのか!」
「やめちまえ!!」
「説明しろっていってんだよ!!」
「あんたのせいで俺達までテロリスト扱いされたらどう責任取るんだ!!」
「なんであんな事する必要あるんだよ!!」
「なんで必要か説明を――」
「いずれ、來る天敵との戦爭、神種による人類社會の崩壊、神との生存競爭の為です」
「――は?」
國會を戸いが覆う。
そして――。
「「「「「「「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」」」」」」
嘲笑。
嘲笑。
嘲笑。
嘲笑。
人が嘲っていいものを見つけるとこんな風になる。
多賀を追求していた全ての議員が、嗤い続ける。
「何を真顔でwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「総理、お気は確かですかwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「生存競爭wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「神鑑定をけたほうがいいのではwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「閣総理大臣にふさわしくないwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「総理、あなたは何がしたいのですか」
「護國」
「「「「「「「「「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」」」」」」
笑いの渦。
國會中継の視聴率はすでに45パーセントを超えている。
そして。
かち、かち。
――10秒前。
「総理、ではwwwww見せてくださいよwwwwwww」
「何をでしょうか?」
――8秒前。
「証拠ですよwwwww、その神種が國家の脅威になる証拠をwwwww、今、ここで証明してくださいよwwwww」
「何を、でしょうか」
――6秒前。
「wwwwwwwwwアレフチームと同盟を結ぶ事が國家防衛にどう必要あるかをですよwwwwww――証(・)拠(・)と(・)結(・)果(・)を(・)も(・)っ(・)て(・)こ(・)い(・)よ(・)!(・)!(・)!(・)!(・)!(・)!(・)」
「はい、承知いたしました」
「「「「「「えっ」」」」」」
――1秒前。
2032年、3月。
多(・)賀(・)慎(・)二(・)のたどった歴史においてはこの日。
國會常會に、出席の各黨議員、その7割が死亡。
牛革の手帳にしっかり記されている。
【3月、北緯35度40分33.2秒 東経139度44分41.9秒】
『ふんむ。そなたらやはり、猿の頃からあまり変わってないのう~』
「えっ」
それは、當たり前のように宙に座っていた。
「えっ」
「はっ」
「え」
異様、威容。
しい男だった。
當たり前のように宙に胡坐を掻き、國會議事堂を見下ろす異様だった。
『そなたらが猿の頃もの~こうやってなんか狩りの否でもめてたのを覚えとるのお~。くくく、哀れな猿じゃった、獲を追うか、つがいを守るかで迷ってのう、結局、つがいを選んで獲を逃がし、群れの怒りを買って殺された、つがいごと殺されてのお~、それと似とるなあ』
「は……」
「へ……」
「ふ……」
誰も聲を出せなかった。
現代人には消えて久しい本能。
聲を出した者から――。
『およ~どうした、皆の者、猿の諸君。さっきまであれほどきゃいきゃい喚いておったのに~』
繰り返す、異様。
一目でそれが尋常の存在ではないとわかる。
しい男の上半は、見とれるほどの。
隆起した筋は、これまで歴史上の名だたる彫刻家が目指したものはこれではないか、そう錯覚させるほどの。
下半は、山羊の足。
世界すべてを走り回れる神の異形。
半獣半人の神種、神――。
『お~そうよな~死にとうないよな~猿は生きるの好きだものなあ。そなたらは正しい、その沈黙は正解じゃ』
にま~とほほ笑む絶世の男。
『それでじゃ、猿、俺は、そなたらを殺しに來た。あ、特に理由はないんじゃが、我が王に笑ってほしくての』
ぞわり。
神。
人類に対しての絶対的な優位権を発揮する神の能。
抗う事が出來るのは一部の特別な者だけ。
ここにいる人間は理解した、が先に理解した。
死ぬ。
ここで。
この存在の機嫌、気分、それがわずかでも傾けばー―。
『おぬしらはわめくのが好きなサルじゃろ? のう、こうしよう、最初に俺に話しかけた者を殺す。あ~そうじゃ、そうじゃ。そうしよう、俺に話しかけた者だけを殺す。じゃがのう、10數えるまでに誰か、自分から俺に話しかけた者がおったら、そいつだけを殺す。それ以外は見逃したろうか』
ぱん。
神が手を叩く。
さっきまであれだけ話していた者、聲を上げた者は一言も出さない。
涙目になり、はいつくばり、腰を抜かし、あるいは気絶し。
國民の代表足る彼らはみな、今、唐突に神を知った。
そして、祈った。
誰か、誰か、誰か。
死にたくない。
生として。當然の反応。
この國會議事堂にいる”人間”はみな、しゃべらない。
だって死んでしまうから。死ぬのは嫌だから。
『10、9、8、7、6、5――』
だが、ここに1人だけ、人間ではなく。
己を、人間ではなく。
己があり方を、人間ではなく。
「やあ、初めまして。ニホン閣総理大臣、多賀影史だ、君は誰だい、神種よ」
『――ほほっ』
――閣総理大臣。そう定義した男がいる。
『ほほほほ。驚いた。ニホンの王よ、そなた……』
「名乗ったのは、私。君に話しかけたのは私だ。神よ、名は?」
『――パーン。ほほ、なるほどのう。我が王が貴様の事を気に賭けた理由がわかる』
「そうかい、君達には王がいるのだね」
『ああ、そなたもまた王の資格がある。死ぬとわかってなぜ、聲をあげた?』
「必要な事だからね」
『そうか、うむ、決めた』
神は興味深そうに多賀を見下ろした後。
『そなたは、我が王と競う資格がある。なので、やめた、そなたはここで殺すのはなしだ』
神が、うんうんとうなずく。
敬意に似た表で、多賀を見下ろして。
『なので、それ以外を殺そう。猿の群れ、嫌いなんじゃよね~』
「「「「「「「えっ」」」」」」」
『おっ、俺に、話しかけたな』
「「「「「「「「ひっ」」」」」」」
議員達が我先に逃げ出そうと國會の出り口に殺到する。
いつも居眠りしているような者も信じれられないほどの速さでく。
死ぬ、死ぬ。死ぬ。死ぬ。
その恐怖が彼らをかす。
『哀れよのう。貴様のような者もいるが、ほとんどはアレだ。指先1つで終わる命。自己保の事でしか使わぬ小さな脳みそ。ああ~目ざわりじゃ~、殺そ』
神種が指をぱちっと鳴らす。
それだけで――。
「あ、ああああああああああああああああ!?」
「なんでえええええええええええええええええええ!?」
「噓うそうそそうそそすそすそうそすそすs」
「おあああああああああああああああああああああああああああ」
逃げう議員達の腕が、足が変形していく。
葦、川辺に生える最も弱い植。
もしくは、自分で自分の首を絞めたり、壁に頭を打ち付けたり。
『はははははははは~面白、見ろよ、ニホンの王、これが人間、これが猿。そなたが守る価値あるのか?』
神はけらけら嗤いながらその癡態をあざける。
これが神種。
これから先。ニホンを最悪の未來に追い詰める怪。
怪は期待していた。
この優秀で勇敢なサルが慄く姿を。
自らの群れの崩壊に1人で生き殘るその絶を。
神は、そういうのが大好きで――。
「パーン君」
『む? どうした? ああ、安心せい、そなたには手出しせぬ、そこで愚か者達が死んでいくのを――』
「君達は本當にそうやって、宙に浮かぶのが好きなんだね」
『は?』
がちゃん。
扉が開いた。
パーンの直上、下向きに開いた扉から――
「総理い総理いいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
「なんとかしてくださいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「総理いいいいいいいいいいいいい助けてえええええええええええええええええええええ」
議員達の悲鳴と、同時だった。
「人気者だな、総理殿」
『はッ――』
ずるり。
扉からびる無數の腕、手、それが一種でパーンを引きずり込んで。
ぼぎっ。めきっ。
『な、あ、貴様は、なんでっあ!!!!????」
ごぎん、ぼり、ぐちゃっ。
ばしゃああああああああああああああああああああ。
青のが、扉からしたたり落ちる。
ぎいいいいい。扉が閉まり、また開いた。
「え、え、腕、治って……」
「あ、私は何を……」
「何が起きて……」
もはや議員達に起きた異変は消えていた。
神種の死亡と共にその権能は影響を消して。
ばちゃっ。
扉から降りてきたのは男と、。
青いまみれの腰からはやした翼をたたんでがにっこり微笑む。
「……多賀のおじさま、これで、あさまの事信じてくれ……る?」
「ああ、アサマ神よ、手間をかけたね」
「やっぱ予想通りだなァ、アサマと一緒にいればよ~あの神とかいうのかなり薄くなんなァ。普通の耳男でも十分殺せるわ」
青いまみれの男。
その手には、山羊の首が摑まれて。
「「「「「は……?」」」」」」
事態を理解できていない彼らを後目に、多賀が壇上へ。
「皆様、大変お待たせいたしました」
「お、総理殿、時間だ」
がちゃん。
宙に赤い扉が開く。
そして――。
「ハァイ、ニホンの政治家さん達、はじめまして」
現れるのは風。
それを従えるのは金の髪、青い瞳のとんでもない人。
彼に従う風が、扉の奧から運ぶのは。
「うへえええええ……これ、やっぱ運ぶには重すぎないかい?」
「でもそういう依頼っすからねえ~、あ、タダ。アサマちゃん、そっちも問題なさそうっすね」
赤い髪の妖のような容姿の。
灰髪の丈夫。
そして。
「……怪の、首?」
オキナワを縄張りにし、これまでニホンの戦力のことごとくを葬った怪種の首が。
「ミスター多賀。依頼通りよ。オキナワを縄張りにしてた指定怪種、ブラッドシーサー討伐完了!」
「多賀総理殿、依頼通りだ。國會議事堂を襲撃した神種”パーン”、ぶっ殺した」
國會議事堂にて掲げるのは、首級。
この國が、この狹い島國で殺し合いを続けた戦闘集団が譽とした原始的オブジェクト。
巨大な怪の首と神の首。
それを掲げると男を両脇に。
ニホンの総理大臣が高らかに。
「大変結構!!」
その聲は、まさしく王の一聲。
「皆さまにお知らせです! 今しがた、アレフチーム主導によるオキナワ領土回復最大の障害、指定怪種”ブラッドシーサー”、そして神種”パーン”の討伐を完了! ここにニホン、アレフチーム共同作戦”ストームアロー”の完遂を宣言いたします!!」
もう誰も、その聲を出す事は出來ない。
「次なる作戦は”八島作戦”。神種による國土攻撃の防衛、および敵神種すべての討伐です!! ――3月を終え、次は4月だ」
多賀が走った目で、誰も何も言えぬ狂気を、あの夏に焼け付いた景だけが消えない目を見開いて。
「次なる戦果の報告をお楽しみください、さて、それでは國會を続けましょうか――ああ、そうだ、お集りの議員の皆様」
味山とアレタ、それぞれに多賀が視線を向け。
「――証拠と結果にはご満足頂けましたでしょうか?」
読んで頂きありがとうございます!ブクマして是非続きをご覧ください!
凡人探索者3巻、たくさん読んで頂きありがとうございます!
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8 111異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる
ある日、天草 優真は異世界に召喚された。そして彼には秘密があった。それは殺し屋であったこと....... これは殺し屋だった主人公が自重せずに自由に生きる物語である。 この小説を読んでくださった方、感想をコメントに書いてくれたら嬉しいです。お気に入り登録よろしくお願いします。 作品を修正する度に、お知らせ【修正中〜話】から、ご報告させて頂きます。 一作品目『異世界に召喚された殺し屋は自由に生きる』 二作品目『水魔法は最弱!?いえ使うのは液體魔法です』 三作品目『現代社會にモンスターが湧いた件〜生き殘るために強くなります』 Twitterフォローも 宜しくお願い致しますm(*_ _)m SR45333500
8 78名探偵の推理日記〜雪女の殺人〜
松本圭介はある殺人事件を捜査するため、雪の降り積もる山の中にあるおしゃれで小さな別荘に來ていた。俺が事件を捜査していく中で被害者の友人だという女 性が衝撃的な事件の真相を語り始める。彼女の言うことを信じていいのか?犯人の正體とは一體何なのか? 毎日1分で読めてしまう超短編推理小説です。時間がない方でも1分だけはゆっくり自分が探偵になったつもりで読んでみてください!!!!初投稿なので暖かい目で見守ってくださると幸いです。 〜登場人物〜 松本圭介(俺) 松本亜美(主人公の妻) 松本美穂(主人公の娘) 小林祐希(刑事) 大野美里(被害者) 秋本香澄(被害者の友人) 雨宮陽子(被害者の友人) 指原美優(被害者の友人)
8 125発展途上の異世界に、銃を持って行ったら。
「おめでとう!抽選の結果、君を異世界に送ることになったよ!」 「……抽選の結果って……」 『百鬼(なきり) 樹(いつき)』は高校生―――だった。 ある日、授業中に眠っていると不思議な光に包まれ、目が覚めると……白い空間にいた。 そこで女神を自稱する幼女に會い『異世界を救ってくれないか?』と頼まれる。 女神から『異世界転移特典』として『不思議な銃』をもらい、さらには『無限魔力』というチート能力、挙げ句の果てには『身體能力を底上げ』してまでもらい――― 「そうだな……危険な目には遭いたくないし、気が向いたら異世界を救うか」 ※魔法を使いたがる少女。観光マニアの僕っ娘。中二病の少女。ヤンデレお姫様。異世界から來た少女。ツッコミ女騎士、ドMマーメイドなど、本作品のヒロインはクセが強いです。 ※戦闘パート7割、ヒロインパート3割で作品を進めて行こうと思っています。 ※最近、銃の出番が少なくなっていますが、いつか強化する予定ですので……タイトル詐欺にならないように頑張ります。 ※この作品は、小説家になろうにも投稿しています。
8 116転生プログラマのゴーレム王朝建國日誌~自重せずにゴーレムを量産していたら大変なことになりました~
ブラック會社で過労死した《巧魔》。 異世界へ転生した巧魔は、《ゴーレム》を作成出來る能力を手に入れていた。 働きたくないでござる癥候群筆頭の巧魔は、メガスローライフ実現のためここぞとばかりにゴーレムを量産。 しかし目立ちすぎてしまったのか、國王に目をつけられてしまい、かえってメガスローライフが遠のいていく。 果たして巧魔に平穏なスローライフは訪れるのだろうか……。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 【本作の特徴】 ・ゴーレムを使い內政チート ・戦闘特化ゴーレムや自己強化型ゴーレムで戦闘チート ・その他ミニゴーレム(マスコットキャラ)など多種多様なゴーレムが登場します ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ ※この作品はアルファポリス同時掲載してます
8 70幻影虛空の囚人
プロジェクト「DIVE」と一人の犠牲者、「So」によって生み出された究極の裝置、「DIE:VER(ダイバー)」。長らく空想の産物とされてきた「ゲームの世界への完全沒入」という技術を現実のものとしたこの裝置は、全世界からとてつもない注目を集めていた。 完成披露會の開催に際して、制作會社であり技術開発元でもある「吾蔵脳科學研究所」は、完成品を用いた実プレイテストを行うためにベータテスターを募集した。 その結果選ばれた5名のベータテスターが、新たな物語を繰り広げる事となる。
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