《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》狹間砦の戦い
ラファ・グランドークと會談をした翌日早朝。
狹間砦正面に展開していた狐人族にきがあった。
五千人規模で三部隊橫並びだった敵陣が、一萬人規模で四部隊橫並びに変わったのだ。
その後ろにも、一萬人規模と思われる二部隊が縦に並び、前戦からし離れた後方に千人規模の二部隊が陣を構えている。
砦正面に橫並びとなった敵四部隊を指揮しているのが、後方に控える『マルバス・グランドーク』の部隊。
マルバスの後ろには、ラファが指揮する軍勢が予備軍のように陣取っている。
そして、最後方に千人規模で縦に並ぶのがエルバとガレスの陣営だ。
グランドーク家は狹間砦を陥落させるべく、溫存していたガレスとエルバの戦力を前戦に投。
今日で決著を付けるつもりなのだろう。
アリア達の航空偵察によってこの報がもたらされた時、僕と父上はをで下ろした。
現狀のきと敵陣の並びこそ、會談でラファにした『お願い』であり、狙いだったからだ。
そして僕達は、すぐに次の一手に打って出た。
狹間砦の正面に並んだ、おそよ六萬の敵軍。彼等からよく見える位置に僕、父上、アモンの三人で並び立ったのだ。
何事かと狐人族の戦士達がどよめく中、アモンが躍り出た。
「僕は狐人族の現部族長、ガレス・グランドークの息子。アモン・グランドークである」
彼の名乗りと共に、戦士達に困のが見え始める。
「皆、どうか耳を傾けてくれ。僕を暗殺しようとしたのは、バルディア家ではない。我が父のガレスと兄のエルバだ」
アモンはそう言うと、狐人族とバルディア家が開戦となった切っ掛けを大聲で説明し、グランドーク家の橫暴と圧政を決して許してはならないと語った。
「……よって僕、アモン・グランドークは決起する。バルディア家の力を借りて、狐人族の未來のためガレス・グランドークを打ち破り、新たな部族長になってみせよう。もし、僕に賛同するものが居るなら、武を置いてこの場から立ち去るんだ」
「聞いての通りだ。我等バルディア家は、大義をある『アモン・グランドーク』殿の決起を支持する。戦いたくない者は下がれ」
彼に続いて父上の言葉が敵陣に響き渡ると、狐人族の戦士達はどうして良いのかわからず、戸いを見せ始める。
だけどその時、敵陣の奧から「狼狽えるな」と大聲が響いた。
「我が父ガレスと兄エルバが言ったことをもう忘れたのか。我が弟、アモンは死んだのだ。あそこに立つ者は、バルディア家が用意した卑劣な偽に他ならない。同胞よ、今こそアモンの無念を晴らし、同胞を奴隷から解放するときぞ」
困していた戦士達はハッとして我に返ると、憎悪の籠もった眼差しを向けてくる。
でも、僕達は意に介さない。
こちらの目的は、もう果たされた。
「大聲を発したのが兄のマルバスです」
「そっか。教えてくれてありがとう」
アモンが耳打ちをしてくれたその時、遠くにある敵陣から『狼煙』が立ち上がるのが見えた。
同時に狐人族の戦士達が次々と鬨の聲を上げて、砦に向かって前進を始める。
まさにいま、狹間砦の戦いの火蓋が切られたのだ。
だけど、彼等がこの砦を昨日と同じだと考えているなら大間違い。
どんな大軍でも簡単には落とせない仕組みを、夜のうちに用意している。
僕は次のきに備えて父上達と移をしつつ、通信魔法を発した。
「アリア、空から見える戦況を教えて」
「はーい。えっとねぇ……敵さんは、カルア達が造った上り坂を一生懸命登ってるよ。でも、砦から飛んでくる矢と魔法に慌ててるじかな」
「わかった。問題なく計畫通りに進んでるみたいだね」
「うん。でも、お兄ちゃんも考えることが酷いよねぇ」
聞こえてきた呆れ聲に、僕は首を傾げた。
「え、どうして?」
「だって、角と線を通した上り坂を歩かせて砦から狙い打ちでしょ。それに、上り坂を頑張って登っても、目の間にいきなり『空堀』と『橋』が広がるんだよ? お兄ちゃん、絶対に格悪いよ」
「今は有事だからね。褒め言葉としてけ取っておくよ」
「えぇ? 変なの。あ、敵さんが空堀にどんどん落ちてるよ。うわぁ、痛そ~」
アリアは高い空から見ているだけだし、僕も移しながら話しているだけだから現場を直接目の當たりにしていない。
砦正面の現場は、さぞ地獄絵図になっていることだろう。
遠くから見る砦正面は前日と変わりなく見える。
でも、第二騎士団の施工で平坦な道が上り坂に変化しており、歩く者は先が見通しずらい。
その上、砦から放たれる矢や魔法の線は通るように計算されている。
苦労して上り坂を進んでも、突然と現れるのが初見殺しの『空堀』と『橋』。
これらの仕組みで砦はより強固に。
そして、時間を稼げるはずだ。
◇
「あ! お兄ちゃん。敵さん全がどんどん前に出てきてるよ。數で押し切ろうとしているじがする」
「わかった。すぐに皆に次の指示を出すから、通信を切るね」
「はーい」
アリアからの通信を終わらせると、僕はサルビアを通じて第二騎士団で『水の屬魔法』を使える子達に指示を伝達。
間もなく、砦正面の方角から激しい水音が轟き始める。
「アリア、作戦開始だ」
「わかった、お兄ちゃん。じゃあ、皆で一斉にいくからね」
返事からしの間があって、再び彼の聲が脳裏に響く。
「センチネル。ロングレンジ攻撃!」
空に漂う白い雲の中から閃が走り、轟音と共に地上に落ちる。
それはまさに、『落雷』そのものだった。
落雷は一度では終わらず、何度も連続して地上に落ちてくる。
しかも、狐人族の『將』を目掛けて正確にだ。
「……恐ろしい景だ。見ているだけで背筋が凍るぞ」
「ふふ、父上がそう評価してくださるなら、この『対大軍戦略』は功ですね」
圧倒的な兵力を誇る大軍にも、実は弱點がある。
それは、指揮系統と報伝達だ。
一般的に、人が有効に管理できる人數というのは五~八人が理想と言われている。
あまりに多くの人數を一人で管理しようとすれば、指示が行き屆くなり、指揮や運営に支障をきたしてしまう。
じゃあ、大軍の管理はどうなっているのか? 答えは意外と簡単だ。
末端の戦士を五~八人管理する者をまず決める。
次にその者を管理する將を決めていく……という合で『ピラミッド型の組織』を造り、管理を効率化させるわけだ。
だけど、もしも管理者が機能を果たせなくなったらどうなるのか? その答えも簡単だ。
指揮系統が崩れ、報が伝達されなくなり、大軍であるが故にうまく機能しなくなってしまう。
むしろ、數が多い大軍であればあるほど、指揮系統の混は致命傷となりかねない。
狹間砦正面の戦場では、現場を指揮する將が次々とアリア達が空から放つ『魔槍弓センチネル』の餌食になっている。
遠巻きでも、將を失った敵陣が大混に陥り、隊列が崩れているのが窺えた。
もう暫くすれば、グランドーク家の指揮系統は再起不能となり、大軍は組織力のない『烏合の衆』とり果てることだろう。
「うむ。順調に事が進んでいることは確かだが、油斷はならん。我等も先を急ぐぞ」
「はい。畏まりました。では、そろそろ次のきを『彼等』に指示しておきます」
僕はそう言って、通信魔法を発する。
「サルビア。次の作戦に移行する。『僕達』を砦から出陣させるんだ」
「畏まりました。狹間砦で待機している特務機関の団員達にすぐ申し伝えます」
通信が終わって程なく、狹間砦に新たなきがあった。
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