《やり込んだ乙ゲームの悪役モブですが、斷罪は嫌なので真っ當に生きます【書籍大好評発売中&コミカライズ進行中】》バルディアの逆襲
エルバの陣は前線の様子に気を取られていたらしく、森から出てきた僕達の存在に気付いていなかった。
やがて、バルディア家の紋章と百足が施された旗を掲げた赤い甲冑の集団に敵陣も気付くが、時既に遅し。
僕達の軍勢は、魔法の有効程に敵陣を捉えていた。
「死にたくない者は下がれぇ!」
僕はそうぶと、圧魔法で巨大な水球を空に生み出し、敵陣目掛けて投げ放つ。
次いで、僕の傍に控える第二騎士団の分隊長の子達、ディアナ、カペラ、クロスと魔法を扱える騎士達が敵陣目掛けて様々な屬の魔法を一斉に放った。
奇襲に対応が遅れた敵陣は、僕達の放った魔法を防ぎ切れなかったらしい。
敵陣から凄まじい水柱、煙、音が立ち上がり、地響きが伝わってくる。
空に居るアリア達の報だと、エルバがいる敵陣の兵力は千程度。
ただし、おそらくは鋭だ。
今の攻撃でどれだけ被害を與えられただろうか。
そう思った時、まだ視界の晴れない煙の中から無數の『炎』が飛んでくる。
やはり、あの程度では駄目か。
「リッド様。魔法がきます。防陣形になり防ぎましょう」
「いや、これは単なる脅しだ。全軍このまま突っ込む」
「な……⁉」
クロス達が目を見開くが、敵陣から放たれた魔法をよく見ればこちらの位置を捉えていないことは明らかだ。
「足を止め、逃げ回るより當たらないものさ。僕が保証する。クッキー!」
名を呼ぶと、彼は意図を察して咆吼しながら走る速度を上げていく。
「魔障壁を正面に展開しながら駆け抜けるんだ。『回復薬』を使い果たすつもりで進め。戦になれば、敵も魔法が使いづらくなる。ここが最初の難関だ!」
「おぉおお!」
背後の騎士達から士気の高い聲が返ってくる。
ここで足を止めてしまえば、自軍の勢いが無くなり、敵陣に態勢を立て直す時間を與えてしまう。
それに、戦における『先駆け』の重要は事前に聞かされている。
『戦の士気は、先駆けに掛かっている。敵に恐れず、勇敢に立ち向かう者がいれば自然と兵はついていく。だが、その逆もしかりだ』
後継者教育で父上はそう教えてくれた。
なら、立場のある僕がその役目を実行すれば、騎士達の士気はより高まるはずだ。
「このまま、先駆けて敵陣に攻めるよ」
「リッド様! 無茶をされないください」
クロスの言葉をよそに、僕を背中に乗せて走るクッキーは飛んでくる炎を避けながら、戦場を駆け抜けていく。
「……⁉ 見えた!」
無數の炎を掻い潛った先には、二尾や三尾の姿に獣化した槍を持った戦士達がいた。
でも、隊列が崩れており態勢は萬全ではない。
初撃の魔法が効いているのだろう。
それに、よく見れば彼等は全員ずぶ濡れだ。
僕が放った魔法、『大水球』の直撃を浴びたのかもしれない。
「な、なんだ⁉ 魔に乗った子供が突出してきたぞ⁉」
「狼狽えるな。ここに來た以上、何者であろうと敵だ。あの先駆けのを止めろ!」
狐人族の戦士達は殺気の籠もった鋭い眼差しを浮かべ、槍衾を作って突き出した。
「飛ぶんだ、クッキー!」
呼びかけに小さく頷いた彼は、駆ける勢いのまま槍の柄を踏みつけ、空高く跳躍して槍衾を飛び越える。戦士達は目を丸くし、頭上の僕達を見上げた。
「な、なにぃ⁉」
僕はクッキーの背に乗ったまま右手で『雷槍』を逆手で持つように発。
そのまま、戦士達がいる周辺の地面目掛けて放った。
雷槍が大地に突き刺さると、周辺に雷鳴と雷撃が迸る。
「ぐぁあああああ⁉」
槍衾を作っていた戦士達は苦悶の表を浮かべ悶えると、次々とその場に倒れ込む。
この辺りの地面は、『大水球』によって水たまりができていた。
加えて、彼等もずぶ濡れだったから『雷槍』で電したわけだ。
僕はここで始めてクッキーの足を止め、『魔刀』を空に掲げながら後続に振り返った。
「突破口は開いた。勝負はここからだ。このまま、一気に行くぞ」
「おぉおおおお!」
騎士達は、鬨の聲を上げて士気が高いまま敵陣に次々と切り込んでいく。
これで、先駆けは功したと言えるだろう。
死が隣り合わせの恐怖と興で鼓は高鳴り、耳と頭が冴え、視界にる景が全てゆっくりに見える。
深呼吸しながら、ふと魔刀を握る手を見れば小さく震えていた。
「……震えが止まらない。これが、戦場か」
「リッド様。大丈夫ですか? 初陣なのです。ご無理はしないでください」
傍に控えるクロスがそう言うと、ディアナとカペラも心配顔そうにこちらを見つめていた。
「ありがとう。でも、ここで負けるわけにはいかない。行こう、皆!」
前を見據えると、クッキーが咆吼して再び戦場を駆け走る。
◇
戦場にきがあったのは、僕達が奇襲をかけて間もなくのことだった。
ガレス率いる部隊が、『僕達の存在』にすぐに気付いてエルバを援護しようとき始めたのだ。
だけど、援軍には來られない。
き出したガレス率いる部隊の背後を、父上が率いる別働隊が攻撃を仕掛けるからだ。
何故、僕が率いる騎士達が奇襲で赤い甲冑をに著け、旗を掲げていたのか。
戦場で敵味方を素早く見分けるため、士気高揚、位置確認……理由はいくつかあるけど、一番の目的は『目立つ』ためだ。
戦場で真っ赤な甲冑をに著けた部隊がいていれば、遠くからでも眼で存在を確認できるだろう。
そして、彼等には僕達のように『通信魔法』は使えない。
事前に得ていたガレスの人柄、格上。
エルバの部隊に異常が起きたことを遠目でも察知すれば、ガレスはすぐに軍をかすと睨んでいた。
実際、上空から戦場を伺っているアリア達から、ガレス達がこちらの読み通りにき、父上率いる別働隊の奇襲が功したという報告をけている。
だけど、予想外の事もあった。
ガレス達のきが報告されて間もなく、所屬不明の鳥人族が出現。
アリア達が現在戦している。
上空からの報が遮斷され、敵指揮の狙撃及び空対地魔法による援護が期待できなくなったのは、作戦上大きな痛手だ。
もう一つの予想外は、エルバ率いる部隊が態勢を立て直すなり、攻勢に転じて猛攻を繰り出してきたことだ。
獣人族の能力は人族よりかなり高い。
獣化を使いこなし、厳しい訓練を施された兵士となれば尚更だ。
先駆けに功して數的優位もあった僕達の部隊だったけど、敵部隊でエルバが先頭に立ってき始めた瞬間、戦況が変わった。
猛攻に押され、數的優位であったはずのこちらが逆にしずつ押されている。
だけど、引くわけにはいかない。
父上の部隊がガレスを討ち取るまで、エルバを……敵部隊をここで食い止めないといけないからだ。
僕達が敗れれば、ガレスとエルバを同時に父上は相手をしなければならない。
皆と戦場を駆け抜けていく中、正面に一際大きい狐人族が見えた……エルバだ。
彼は己のの丈以上に大きい戦斧を振るい、先行していた騎士達を薙ぎ払った。
「……⁉ エルバァアア!」
気付けば、僕は怒號を発していた。
奴はこちらに気付いたらしく、返りで真っ赤に染まった顔で不敵に笑う。
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