《チート能力を持った高校生の生き殘りをかけた長く短い七日間》第二十一話 パシリカ
リンが、ローザスやハーコムレイから教會と王家の関係について話を聞いているころ、狙われても不思議ではない一人であるマヤは妖の姿のまま、姿を隠してミトナルとナナと一緒に王都を見て回っていた。
ポルタ村と違って王都は人が多いのは當然だとして、他にもいろいろ見たいものが多い。
マヤは好奇心の赴くまま王都の中を移していた。
ミトナルとナナは、マヤの行きたいという方向に進んでいる。
「このまま行くと、宗教都市ドムフライホーフに行くけど?」
「え?何か、問題でも?」
ナナの問いかけにミトナルは不思議そうな表で答える。
「え?聞いていないの?」
ナナは、ミトナルがリンから聞いていないかったのが不思議に思ったのだが、実際にはリンも教會と自分たちの関係を知らなかった。
ナナとミトナルは、マヤに聞こえないように小聲で會話をしている。実際には、ミトナルとマヤはつながっているので、話を緒にするのは不可能なのだが気分の問題と様式として緒話をしている。
「何を?」
「無理やり、リンの母親・・・。サビニを奪おうとしたクズ貴族を匿ったのが宗教都市ドムフライホーフの當時の教皇よ」
「え?」
「そして、サビニに子供が産まれると、宗教都市ドムフライホーフに寄越せと言ってきたクズでもあるわよ?ニノサがサビニを連れ出さなければ、宗教都市ドムフライホーフに連れていかれる所だったのよ」
「なに・・・。それ?そのクズは生きているの?」
「そこまでは知らないけど、王家なら何か摑んでいるかもしれないわね」
「うーん」
「どうしたの?」
「ナナ。正直に言っていい?」
「いいわよ?」
「もし、リンとマヤに手を出してくるようならつぶしてしまえばいいでしょ?」
「でも、そうしたら・・・」
ナナは、宗教都市ドムフライホーフに向かっている集団を目線で捕らえる。
パシリカをけに來ている者たちだ。
「それなら問題はない」
「え?」
「リンの神殿でも、パシリカの様なことができる。多分、ロルフの言葉を借りれば、パシリカの上位互換」
「は?なんで?あれは・・・。教會は・・・。え?」
「詳しいことは、僕にはわからない。ロルフが言うには、パシリカはもともと、神殿の権能でスキルを與える儀式だと言っていた。スキルの種を埋め込んでから訓練をする。埋め込まれたスキルの種の発芽を確認するのが、パシリカだと言っていた。今、教會が行っているのは、潛在的に持っていたスキルの確認だけ、実際にパシリカをけなくても、スキルが使える。ただ、スキルの種類がわからないから”使えない”と錯覚している」
「うそ」
「真相はわからない。でも、ロルフの言っていることは正しいと思う」
「なぜ?」
「ナナ。ミアは、人?魔?」
「え?ミアちゃん。教會は認めていないけど、種族は人ではないけど、人でしょ?獣人族という人だと思うわよ?」
「うん。あと、ないけど、エルフ族やドワーフ族もいるよね?」
「そうね。種族は違うけど、人と呼ばれる者はいるわ」
「ジャッロやヴェルデやビアンコやラトギは、魔に區別されるけど、進化した彼らなら人と言われてもわからないよね?大きさは別にして・・・」
「そうね。そう考えると、人って何?」
「難しいことはわからないけど、”神”の祝福を持っているのが人だと、ロルフは言っていた。だから、ラトギは人だけど、オーガは人ではない」
「??」
「僕もよくわからない。でも今は関係ない。ナナ。ミアは僕たちと・・・。神殿に來る前にもスキルを使っていた」
「えぇそれはなんとなくわかるわ。彼らは、自然と・・・。そういうことね」
「うん。エルフもドワーフも、もちろんミアも、宗教都市ドムフライホーフでパシリカをけていない。でも、スキルは使えている」
「それは、種族的な・・・。あぁだから、知っていれば使えると考えるわけね」
「うん。エルフとドワーフ。ミアも、”種族的に、この固有スキルは使えるはずだ”と考えてスキルを発している。パシリカをけなくても、スキルの発ができる証拠」
「でも・・・」
ナナは、何か反論が出來るのではないかと考えたが、自分の常識を照らし合わせても、反対の考えが思い浮かんでしまう。
「僕も確証はない。でも、ロルフの話や、僕とマヤが経験したことから、神殿ならできるとおもう。リンなら、なんとかしてくれると思う」
「そうね・・・。ニノサが居たら・・・。教會が何もしないことを祈っているわ」
「うん。それがいい。出された手を切り落とすくらいなら、本をつぶそうと考える」
「出された手を握るという選択肢はないの?」
「握ったままで、刺されたい?」
「・・・」
「僕たちは鏡」
「鏡?」
「善意には善意を、悪意には悪意を、ただそれだけ」
「ねぇミルちゃん」
「何?」
「ミルちゃんの判斷基準は危ないわよ?」
「わかっている。僕は、リンが全て、リンが居れば・・・。なにもいらない。最近、それにマヤがった。そして、神殿がった。リンが大切だと思うから僕も大切だと思う。だから、神殿仲間に悪意を向ける者は僕の敵。敵なら倒す」
「一人では限界があるわよ?」
「うん。わかっている。リンには、頼れる仲間が居る。リンのためなら死んでもいいと思っている者たちも多い。だから僕だけじゃない」
先に移してしまったマヤが、二人が話し込んでいるのに気が付いて戻ってきた。
話は聞いていなかったが、雰囲気は察している。
マヤは、空気を読めるようになってきた。
今までは、狹いコミュニティーの中で生活をしていた。リンの関係者と言え、多くの違う価値観を持つ者たちと接することで、マヤも自分の考えを押し通すよりも、場をまとめる方が自分の意見を通しやすいと知った。
『あれって、パシリカをけに來た子たち?』
マヤが指さした方向を見れば、また違う団が宗教都市ドムフライホーフに吸い込まれるようにっていく。
『ナナ。あの人たちは、どこから來たの?』
「服裝から考えると、北方連合國ノーザン・コンドミニアムだと思うけど・・・」
『へぇ他國からも來ているの?』
「そうね。パシリカが出來るのは、宗教都市ドムフライホーフだけ・・・。だと、言われているから・・・」
先ほどの、ミトナルとの話が引っかかって、斷言するのに躊躇いをじた。
『ふぅーん。神殿でもパシリカができるようになれば、神殿を訪れる人が増えるよね?』
「そうだ!ナナ。聞きたいことがあった」
「何?ミルちゃん?」
「僕たちは、宗教都市ドムフライホーフでパシリカをける時に、金銭を渡していない。話を聞いて、教會が”ただ”で儀式をやってくれているとは思えない。たしかに、報を握るという意味ではメリットはあるけど、それだけのために、得られるはずの金銭を放棄するような行為を行うとは思えない」
「あぁ。教會は、トリーア王國からは、表面上は金銭をけ取ってはいないわよ」
「表面上は?」
「そ、領主にしろ、王家にしろ、優秀なスキルを持っている者は囲い込みたい」
「スキルの取得報を売っているの?」
「教會は、トリーア王國の人間からは、金銭を取らないと明言している。その裏でスキルの取得報を売っている」
「ナナの言い方では、トリーア王家以外からは、金銭をけ取っているみたいだけど?」
「け取っているわよ?國によって金額が違うらしいけど、詳細は教會の事だと教えてもらえなかった。どうやら、教會に友好的かどうかで判斷しているみたい」
「へぇクズだね。つぶした方がいい?リンなら、そんな面倒なことはしない。本當のパシリカを公開してしまうかもしれない」
「え?公開?」
『ミル。本當のパシリカって、この前、ロルフが言っていた”やつ儀式”?因子がどうとか言っていた”やつ儀式”?』
「そう」
『なんか、リンがいろいろ実験していた”やつ儀式”だよね?』
「そう」
『公開しても大丈夫なの?』
「わからない。リンは、教會と王家への切り札にしたいらしい」
『へぇ・・・。難しいことを考えるね』
ナナは、マヤとミトナルの會話をそれだけで終わりにしてしまう二人と、恐ろしいことを考えているリンの思考に震えを覚えつつ、ニノサとサビニの子供は立派に育っていると嬉しくおもうことにした。
パシリカをけるためにできていた行列を眺めているだけでは面白くないのか、マヤは飽きてしまって、別の場所に移すると二人に告げた。
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