《天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭なと便利スキル『創魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~》第506話 すももたろう
「李すもも太郎……聞いたことないな。桃太郎……ではないのね」
パクリか? いや、名前が似ているだけで『桃太郎』とは全く関係無いのかも?
気になってしまったので手に取った。
「え~と、なになに?」
日本語に翻訳するとこんなじ。
┌───────────────────────────────────┐
むかしむかしあるところに おじいさんとおばあさんがいました
おじいさんは山へ柴刈りに おばあさんは川へ洗濯に行きました
おばあさんが川で洗濯していると 川上から大きなスモモが
どんぶらこどんぶらこと流れてきます
驚いたおばあさんはそれを拾い上げ 家へ持って帰りました
おばあさんが 包丁で大きなスモモを切ると
中から玉のような男の子が出てきました
おじいさんとおばあさんは 男の子に『李太郎』と名付け
たいそう大事に育てられました
└───────────────────────────────────┘
これ、完全に桃太郎の冒頭だ……寸分違たがわず桃太郎だ……
違ってるのは、川上から流れて來たのが桃か李すももかってところだけ。
完全にパクリ絵本だ……
が、またも疑問が浮かび興味が湧いてしまった。
「題名タイトル変えてあるってことは、桃太郎とは違うんだろう。どこから違いが出てくるのかしら?」
そのまま読み進めると――
┌───────────────────────────────────┐
長した李太郎は おじいさんとおばあさんにこう言いました
「おじいさんおばあさん 私は都を騒がせている鬼を退治しに行ってきます」
おじいさんとおばあさんは心配ながらも 李太郎にきびだんごを持たせました
「では 行ってまいります!」
桃太郎は 鬼退治へと出発しました
└───────────────────────────────────┘
この作者、パクリ方が酷いな……主人公の名前が違うだけで語は桃太郎そのままじゃないか……
「完全に桃太郎だな、これ……しかも途中、間違えて『桃太郎』って書いてあるし……これは題名タイトル変えてあるだけか……」
この後の展開もきっと桃太郎だろう。興味惹かれたのは間違いだった。
そう思って絵本を閉じようとしたところ、次のページの挿絵が目にった。
「犬でかっ! 何コレどう見ても柴犬じゃないわ! 李太郎の何倍!?」
よく見ると、高で桃太郎の三倍ほどの大きさがある。
不覚にもその巨大な犬の挿絵によって、再び興味が湧いてしまった。
┌───────────────────────────────────┐
李太郎は巨大な狼 フェンリルと出會いました
「李太郎さん李太郎さん 鬼退治に行くのですか?
そのお腰につけたきびだんご 一ついただけるなら太を飲み込むごとく
鬼たちもひと飲みにしてみせましょう」
李太郎はフェンリルにきびだんごをあげました
そして フェンリルがお供になりました
└───────────────────────────────────┘
「…………フェンリル(※)にきびだんご一つ程度じゃ腹の足しにもならんやろ……」
(※フェンリル:北歐神話に登場する悪神ロキの子供で、太を飲み込むほど巨大な狼)
心の中でツッコムつもりが、口に出ていた。
太を飲み込む狼がきびだんご一つで従うって……凄いご都合主義……
「……まあ、続きを見てみましょうか」
┌───────────────────────────────────┐
次に李太郎は雲に乗った猿 斉天大聖・孫悟空と出會いました
「李太郎さん李太郎さん 鬼退治に行くのですか?
私にもきびだんご 一ついただけるならどこまでのびるこの如意棒で
鬼どもを一薙ぎに払ってご覧にれましょう」
李太郎は孫悟空にきびだんごをあげました
そして 孫悟空がお供になりました
└───────────────────────────────────┘
「いや、西遊記と合しちゃったよ……確かに最強の猿 (※)だろうけど……」
(※最強の猿:ドラゴンボールではない方の孫悟空。西遊記に登場する三蔵法師を助け天竺に導くお供の猿の妖怪。のちに斉天大聖という神様になる)
しかも雲に乗って來たから、対空に優位アドバンテージを持つキジのお株奪っちゃってるじゃん。
などと、心の中で突っ込んでいるが、じゃあキジが何に変換されているのかまたも興味が湧いてしまった。
┌───────────────────────────────────┐
最後に天空の神 ホルスと出會いました
「李太郎さん李太郎さん 鬼退治に行くのですか?
私にもきびだんご 一つくださいな いただけたら私は空からの目になり
更に鬼たちとの戦いの際には灼熱の翼を羽ばたかせ
一網打盡にしてさしあげます」
李太郎はホルスにきびだんごをあげました
そして ホルスがお供になりました
└───────────────────────────────────┘
「今度はエジプトの神様 (※)來ちゃった……しかも、孫悟空なんか出すから空からの目が二つになっちゃったよ……」
(※エジプトの神様:古代エジプトで崇拝された天空の神ホルス。太神ラーとも同一視されることがある)
みんな、たかがきび団子一つで簡単に仲間になり過ぎだ。
と言うかこのきび団子、凄く味しいんだろうか? たかだか団子一つで鬼退治に同行するって割に合わん気がするが……
それに、太を食べる狼と太を司る天空の神って、組み合わせ最悪じゃない?
この作者、何考えてこの組み合わせにしたんだ……
「でも、改めて考えるとこの語凄いわ。お供が全員神様かそれに準ずる存在。日本、北歐、中國、エジプトのごった煮だ」
┌───────────────────────────────────┐
李太郎は都に著くと 早速ノアの箱舟を借り 鬼ヶ島へと出発しました
└───────────────────────────────────┘
突然のノアの箱舟…… (※)
その船、そういう用途じゃないから……渡り舟じゃないからね!
(※ノアの箱舟:爭いをやめない人類を一掃するため神様が洪水を起こす。それから逃れるためにノアが乗った舟)
┌───────────────────────────────────┐
鬼ヶ島に著いた李太郎は こうびます
「やあやあ我こそは 天下一品のもののふ 李太郎なり!
そなたたち悪い鬼を敗いたす!」
鬼ヶ島の鬼たちは わらわら出てきて李太郎たちを取り囲みました
そして鬼たちとの決戦の火蓋が切って落とされる
└───────────────────────────────────┘
天下一品って、『品』の文字は要らないのでは……?
多分意味としては間違ってないんだろうが、『品』の字が付くと“人”ではなく“”をイメージしてしまう。
あと、何だかラーメンのイメージが強い。
『火蓋が切って落とされる』も使い方間違ってるし……
┌───────────────────────────────────┐
フェンリルはその巨大な顎で 多數の鬼を一斉にひと飲みにし
孫悟空はそのどこまでもびる如意棒を振り回し
鬼たちを一薙ぎにして吹き飛ばし
ホルスは灼熱の翼を羽ばたかせ 鬼たちを焼き盡くして一網打盡にします
そして李太郎は 弱った鬼の王に向かって
「トドメだ!」
とび 脳天に刀を突き立て 鬼たちの王を倒しました
└───────────────────────────────────┘
凄い……語に出てくる“種族だけは”似てるけど、戦闘力が段違い。
桃太郎という語自は、鬼の軍勢に対して、人一人と犬・猿・キジのたった三匹の貧弱な構だけで勝てるわけがないと思って読んでいたが、この戦力なら、
犬 (ただしフェンリル)
猿 (ただし孫悟空)
キジ (ただしホルス)
のたった三匹でも鬼に勝てそうだわ。
神様従えて鬼を蹴散らすって、なろう小説も真っ青な無雙語だ。
そんで李すもも太郎、トドメ以外何もやってないし……味しいとこだけ掻かっ攫さらって行った……
┌───────────────────────────────────┐
李太郎は鬼ヶ島から金銀財寶を持ち帰り
おじいさんとおばあさんと共に幸せに暮らしましたとさ
めでたし めでたし
└───────────────────────────────────┘
「戦力の増強が凄まじいけど、中々面白い絵本だったわ。作者名は……あ、ここだけ日本語で書いて魔界文字でふりがな振ってあるわ。『絵え之の本ほん狂きょう老ろう人じん卍まんじ丸《まる》』 ※…………作者名までパクリかよ!」
(※絵え之の本ほん狂きょう老ろう人じん卍まんじ丸まる:葛飾北斎の名乗った偽名の一つに『畫狂老人卍』というものがあります。そのパクリ)
思わず本を叩きつけようとしたが、何とか思い留まった。
そして、別に積まれた本に目を移すと『白金はっきん太郎』、『表島おもてしま太郎』という題名タイトルが目にった。
「………………」
『ああ……これも多分『金太郎』と『浦島太郎』のパクリ本だ……』と思い、作者名を見たら――
「やっぱり『絵之本狂老人卍丸』か……こういうじで日本の昔話をアレンジして販売してるのかな……」
どうせ魔界こっちに桃太郎も金太郎も無いんだろうから、堂々と元の名前で売れば良いのに……
そう思いながら手に取って読もうとしたところ、様子を見に本のタワーの間から顔を覗かせたリーディアに――
「あ! アルトラ様、仕分け作業中に読まないでくださいよ! 私だって読みたいのを我慢してるんですから!」
と、怒られてしまった……
「ご、ごめん……」
「ほら! フレアハルトさんも!」
どうやら本に沒頭していたのは私だけではなかったらしい。
「あ、ああ……すまぬ……この『世界のドラゴン大全』というのが中々面白くてな、見ってしまった。世界には『レッドドラゴン』だけでなく、『イエロードラゴン』や『ブルードラゴン』なんかも存在するそうだぞ!」
「へぇ~、そうなんだ」
ブルードラゴンは遭ったことあるな。悪いヤツだったからもう會うこともないだろうが。 (第322話から第326話參照)
「じゃあフレアハルトはそのドラゴン大全を0番の総記ボックスへ持って行って」
「あ、ああ」
「あと、この『李すもも太郎』と『白金はっきん太郎』と『表島おもてしま太郎』と――」
樹魔法で新たに別置べっち記號である魔界文字で『E』と書いた『絵本ボックス』を作った。
「――このボックスも持って行って、三冊を中にれておいて」
「分かった」
後々、私はこれらのパクリ本に魅了され収集することになってしまうが、それはまたの別の話。
作中で本音を語ってしまいましたが、きび団子一つで、命を賭ける鬼退治に同行するのは割に合わないと思います (笑)
次回は9月19日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第507話【開館準備】
次話は木曜日投稿予定です。
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