「ジュリー。この武のランクとかって、何か意味あるのか？」

モーヴを購し、迎えれた當日、彼からそんな問いが向けられた。

「ランクが高い方が威力が上がるし、壊れづらいよ」

「まあ、それはなんとなく分かるが、なんでわざわざＦからSSなんて幅広く用意されてるのかっていうさ」

心無い人が言及したら、意味ないって叩きそうなポイントを……。

「ランクには一応、特徴があるんだよ」

「どんな？」

必死に思い出を掘り下げる。

「まず、一番ランクの低いＦランク。まあ、一番弱い武だね」

「言い方はあれだが、一番要らないランクの武だよな」

まあ、常識的にはそうだけれど。

「Ｆランクには、一番弱いっていう個があるでしょ」

「その個に意味があるのか？」

「あるよ。例えば、ユニークスキルの“天邪鬼”と組み合わせると、一番弱いＦランクが最高ランク扱いになったりするし」

これまでの報と彼の裝備から、《日高見のケンシ》のアキラが所持している可能が高いと思われるユニークスキル、“天邪鬼”。

「下手したら、Ｅランクよりも使い所の多いランクだよ」

「他の能力との組み合わせしだいって事か……そういうややこしいのは苦手なんだがなー」

「もう一つ、Ｆランクの最大の特徴が――自の弱化効果」

「わざわざ自分を弱くするのか？」

「これも、他のアイテムやスキルと組み合わせる前提が多いかな。デメリットが大きい分、メリットも大きいタイプもあるけれどね」

「ふーん」

興味なさげだな……。

「次はＥランクだけれど……Ｅランクはネタアイテムが多いかな」

「ネタアイテム？」

「おふざけ的な？　戦闘には役に立たないが多いよ」

エッチなコスプレ裝とか、“ディグレイド・リップオフ”みたいな展示用が多いのがＥランクの特徴。

まあ、中にはコトリの“鋼鳥の狂群”みたいな尖った武もあるけれど。

「Ｄランクは？」

あんまり興味湧いて無いな、モーヴ。

「Ｄランクは、弱いけれどランクを底上げすると化けるがなくないね」

“火魔の指”を強化すると、Ｓランクの“火帝の指”になったりだとか。

「Ｃランクからは、終盤でも場面しだいで使える武があるね。特定の屬を宿してその屬攻撃を強化したり、特定の屬に対して特効だったり、狀態異常効果を持った武も一通り揃ってる」

「へえ、確かにＣからは使えそうだな。で、私が気にった棒のＢランクは？」

「Ｂランクは、もっとも神代文字を刻める武が富なランク帯です」

してきたのは、私の使用人NPCであるドワーフメイドのエリーシャ。

「そうなの？」

「ジュリーも知らなかったのか？」

オリジナルには無かった要素なんだから、當然でしょ！　モーヴはその辺、知らないだろうけど！

「“長解放”。この効果がある武には神代文字が刻め、この効果と“系統共鳴”は神代文字を刻める武とセットになっていますね」

「その“系統共鳴”ってのは？」

「自分の裝備にある系統が一致していればいるほど、能力が相乗的に強化されるのです。同じ系統數がないと、上昇値は微々たるですが」

エリーシャは微々たると言うけれど、全ての武、攻撃に妖系統を付與する“ティターニアの腕”による能力の底上げはバカにできない。

あの腕のせいで、一時期はフェアリーが最強と謳われていたくらいだったし。

「系統ね」

「私なら天雷系統。モーヴは重力系統中心に裝備やスキルが用意されてたよ」

「參謀が、そんなこと言ってたっけか」

細かい事にあまり頓著しないタイプみたいだな、モーヴって。

「私達は神代文字を刻める武をメインウェポンにするから、ＢランクかＡランクが主力武になってるね」

剣を実化して、文字を刻んでみせる。

「その青い文字の事か……で、Ａランクは？」

「ＡランクはシンプルにＢランクの上位互換が多いね。単純に能が上がるうえ、使い勝手の良い強力な武効果を備えてる事が多い。メインウェポンはＡランクが本來の基本だね」

オリジナルでも、Ａランクを主力、基本裝備にするプレーヤーが多かった。

「一番強いSSランクは一人一つしか裝備できない上に數が足りないからメインにできないんだろうが、なんでＳじゃなくてＡなんだ？」

「Ｓランクはとても強力な代わりに、使い勝手が悪いが多いんだ」

魔師殺し系は魔法を完封できるくらい強力なの、逆に言えば魔法を使わない相手にはあまり意味が無い武。

“滅剣ハルマゲドン”や“アルテミスの銀弓”のように、強力な代わりに燃費が悪く、雑魚戦には向かないなど、Ｓランクは強敵向けの切り札というのがこのダンジョン・ザ・チョイスでの位置づけ。

中にはロイヤル系のような地味に使い勝手の良いＳランクもあるけれど、そういうタイプは悪く言えば用貧乏。

「Ｓランクは燃費が悪くて攻撃回數が限られるが多い分、瞬間火力はSSランクの支配能力を上回るもなくありません」

エリーシャが説明を引き継いでくれる。

「なるほど。継戦能力が下がるのは、場合によっては命取りになるもんな」

細かい事は面倒でも、地頭は悪くなさそうなモーヴ。

「SSランクの特徴は、消費無しで使える支配能力ですね。基本的に一つだけしか裝備できず、量で攻める戦向き。強力なモンスターよりも雑魚狩り、対人戦向けに用意されたかと」

十中八九、私達のような神代文字の使い手に対抗させるために用意された武。

コセ達の話だと、クズでも扱える模造神代文字を刻める武も出回り始めたみたいだけれど。

「最後はEXエクストラランクだね」

「まだあったのかよ！」

EXランクの存在は知らなかったんだ。

「EXランクは主に二種類に傾向が別れる。、強力な補助効果を宿すアクセサリー類か、使用條件を揃えないとあまり意味が無い武にね」

前者は婚姻の指や“世界樹の腕”。後者に當てはまるは、まだ手にれていなかったはず。

EXランクの武を手にれられるかは、運の要素が大きいからなー。

「EXランク武は使用條件を満たさないと使えないタイプが多く、それさえクリアしてしまえばＳランク武にも匹敵しますよ」

「EXランクってのはよく分からないけど、取り敢えず強いってのは解ったよ。強いランクの武ばかりじゃダメだっていうのも……」

面倒くさそうに天を仰ぎ見るモーヴ。

「細かい事は、やっぱりよく分からん……ご主人様よ、私は考えるのが苦手な方だから、死なない程度に上手く使ってくれ」

それはつまり――私に命を預けると宣言したような。

「……任せてくれて良いよ」

他人に対してつい行を強要してしまいがちな私にとって、モーヴは相の良い人間なのかもしれない。

「改めてよろしく、モーヴ」

「ああ、よろしく！　ジュリー」

握手を自分から……心から求めたのは、これが初めてだったかもしれない。