《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》ヘルメスの悪巧み

観客席からどよめきが発生する。

明らかに、刀の切っ先が部を貫通している。

パイロットがいるならば即死だろう。

「パイロットは死んだのか?」

急回避措置は発生しなかったのか?」

観客の多くは食い詰めた傭兵たちだ。

パイロット救命措置が作しなかった衝撃は大きい。

『テウタテスは後ほど回収します。――これは星エウロパ由來の無人兵です。生きている人間が縦しているわけではないのです。機械人形(オートマタ)による作です』

「オートマタだって? 本當に星エウロパからきたのか!」

「あれはシルエットではないのか。そういえば腕部から仕込み刃が出てきたな」

異形のシルエットとは思っていたものの、本當にシルエットではないという事実に驚愕している。

その間にコウたちはパライストラのガレージに戻り、シルエットから降りて一息つく。

こうみえてぎりぎりの戦いだった。

「シルエットに似せただけの人型兵かよ。厄介だな」

バルドがしかめ面でいた。MCSを搭載せずにくものなのかという思いだ。

「人間には縦できない代だ。紛い――スプリアス・シルエットだしな」

嘆息するかのようにコウがプロメテウスから聞いた言葉を口にする。

「オートマタとはね。サイボーグも人形扱いか」

「超AIたちの多くは彼らを人間とは認めていないな」

プロメテウスを含め、多くはバルバロイを機械と見なしていた。

ヘスティアも同様だろう。

「パイロットはどうなるんだろうな」

「人間なら刀を通す前に回収されてっからな」

「修理しますよ。機械ですからね」

ヘスティアがいつものように忽然と姿を現す。

「まずはおめでとうございます。いよいよ決勝ですね」

「勝ったらさぞとんでもないが貰えるんだろうな」

バルドが興味なさそうに言う。金なら唸るほど持っている。でなければパライストラでの競技者生活などできはしない。

「優勝賞品はそうですねえ。現で」

「開拓時代の兵が拝めるならありがてえな」

兵衛が葉わぬ妄想を口にする。ダメ元でいってみただけだ。

「そんなの許されるわけないですよ。かないガラクタといえど、現があればいつかは解析する。あなたたちはそういう生きです」

「おう。俺は解析なんて向かないが、他のヤツが眼になって解析するだろうなァ」

「地下闘技場らしく価値があるものを擔保にしますよ。――重工業要塞エリアに対応したAカーバンクルです」

「……とんでもないものを用意しやがるな」

一つの都市を造ることが可能なAカーバンクルなど値が付けられないほどの価値を持つ。しかし、値が付けられないから無料というわけにもいかないので相場は存在するのだ。

「Aカーバンクルぐらいはストック大量にありますから。暴落しない程度に放出しますよ」

「さらっととんでもねえこと言いやがるな。この神は」

バルドが呆れた。

今や製造されることはなく、數が稀で用途が多いからこそ莫大な価値を持つAカーバンクル。それを大量に所持しているというのだ。経済面で好きなことは可能だろう。

「価値が高すぎて換金が厳しいんですよねえ。高すぎる現は手に余りますよ」

「闇市でも告知した上でオークションでもしないと即金は厳しいだろうな」

換金が難しいほど価値があるものだ。急がなければ告知期間を長くして競売にしたほうがよい。

「副賞はテウタテスですね。十分でしょう? あくまで決勝で勝てればですしね!」

「ちょっと待て!」

コウが表を変えた。

「テウタテスが副賞? 一機だけだろ?」

「あれはAカーバンクル以上に數はないですから一機だけです。分配方法はあなたたちに任せますよ。――では私はこれで」

にこやかな笑顔と共に消えるヘスティア。

頭を抱える二人と、事態を飲み込めないバルド。

「とんでもない政治問題をぶっこんできやがったな」

「なんだ。テウタテスが何か問題になるのか? 人間には縦不可能と聞いたが?」

「――バルド。あれは技封印をかい潛って製造された兵なんだ。つまり研究すれば俺たちにも使える技が眠っているかもしれない」

「さっきヘスティアも言ってただろ? 現さえあれば解析して見せるってのが人間だ。そして技封印に抵しない技。そいつがあれだ。――やばい事態になっている。俺たちじゃなくてバルド。お前さんだよ」

「ゲェ」

非常に面倒臭い案件だ。バルドは傭兵とはいえ、アルゴフォース直屬のエリートフォースともいえる。

おいそれとテウタテスをトライレームに渡してしまったら、彼の立場は非常に危うくなるといえよう。

「どうすりゃいいんだ!」

「副賞辭退という手もあるがな。それだと俺らが殺されちまう」

「だろうな! 構築技士にとって寶の山だろう!」

「バルバロイの技か。ガラクタの可能だってある。本質はテウタテスではなくサイボーグ化だろう。しかし……」

コウも珍しく眉間に皺を寄せて考える。

「……バルド。一つ提案がある」

「おう。なんでも言ってくれ」

打開策を見いだせないバルドは藁にも縋る気持ちだった。

「ヴァーシャと話がしたい。あくまで剣、構築の話をしたい用件だが…… 構築の延長上だ。この件についても話ができるだろう。場所はヴァーシャの指定でいいが、強い酒は飲めないってことは伝えてくれ」

「ダメ元で聞いてやる」

「そうか。すまんな」

「いいってことよ」

コウから提案があるとは思わなかったバルドは、喜を渋面で塗りつぶしてわざとらしくぶっきらぼうに答えた。

どうヴァーシャの面會要求を伝えようか、タイミングを見図っていたバルドにとっては天の救いだ。

ヴァーシャからの要求と叱責、そしてテウタテスの所有問題。一石二鳥ならぬ三鳥だって狙えそうだ。

「コウ君。大丈夫か。俺も同席しようか?」

「はい。狀況を見て同席をお願いします。彼にとっても兵衛さんとの武談義や構築談義は歓迎するところでしょう」

「おう。數にれる前提で話しておくぜ!」

思わず気合いが籠もった返答をするバルドだった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

機とともに宿舎に戻ったバルドがMCSから降りた途端、ガレージで転倒した。

見覚えのある二人組が出てきた。ヴァーシャとまさかのヘルメスである。

「お、お二人とも。何故ここに!」

「貴様の勝利を祝いにな」

にこりともせず告げるヴァーシャ。

「初のあれはなんだ。貴様は――」

「そこまでにしておきましょう。ヴァーシャ様(、 )」

にこやかに笑いながら告げるヘルメスに、渋面を隠さないヴァーシャ。

「へ?」

「ぼくは今日からヴァーシャ様とバルド様の弟子ということで。ぼくの名前はドリオスということでよろしく。ヘルメス様といったら一回につき罰則発生だからね。よろしく!」

「や、やめてください!」

ヴァーシャの渋面の理由が判明した。演技とはいえヘルメス相手にきつい話だ。

「どう接していいかわかりませんぜ」

「実は私もだ」

予想外な同意がヴァーシャから飛んできたが、當然といえるだろう。彼にとって神のような存在である。演技とはいえ、弟子と名乗られてはたまったものではない。

「トライレームのほうできはないか聞きにきたんだ。――ああ、この地で警戒しても意味はないよ。ヘスティアには筒抜けだ。ありのまま話してくれていい」

「そういうことでしたか。それならまあ。ヴァーシャ様の伝言を伝える前にアシアの騎士から提案がございましてね――」

ヴァーシャの顔が変わった。

バルドの説明を聞き終え、大きく頷いたヴァーシャ。

「斷る理由はない。場所は私の指定でよいと。これは嬉しい誤算だ。――剣、構築。そして何か別の案件があるということだな。いいだろう。強い酒は駄目か。なら弱い酒で飲みやすいものを選ばないとな。どんな酒があるか。ヘスティアに相談するか」

酒好きとして要求があるなら最善のものを選ばないといけない。決意を固めるヴァーシャだった。

「ちょっと待った!」

「ヘルメスさ…… ドリオス?」

ヘルメス様というと叱責をけるヴァーシャが、言い直す。

「面會メンバーを変更希したい」

「ドリオス……も參加されたいんですかい?」

先ほどの罰則を思い出し、バルドも意識してドリオスと呼びかける。

「グループ分けだよ。せっかくの機會なんだ。アシアの騎士とヴァーシャ。そして彼の安心させるためにクルトを呼ぶというのはどうだろうか」

「クルト氏ですか。あの人なら剣にも裝甲筋機にも造詣が深い。私としては文句ありませんが……」

「ぼくとバルドは兵衛と稽古したいと渉してくれ! バルドとドリオスの子弟コンビが剣の達人から指導をけるんだよ! こんな機會はまたとない!」

「な……! そういうことですか」

「うぐぅ……」

絶句するヴァーシャとうめき聲しか出せないバルド。

「今のぼくをみても小柄な白男にしか見えないだろ? 正がばれることはまずない。そして兵衛の剣が覚えている。今回のテウタテス戦で必要を痛したんだ」

「――以前から、想定はしていましたね。こんな機會を狙っていましたか?」

「いやだなあ。巡り合わせだよ。もしダメならヘスティアが邪魔にるはずだし?」

聞いているであろうヘスティアを挑発するかのように告げるヘルメス。

「ダメ元で聞いてみますぜ……」

これはトライレームも検討がいる案件だろう。兵衛はざっくばらんな格で話は早いが、他の構築技士は慎重な対応を求めるはずだ。

自分達を稽古しろ。これは兵衛はけてくれるだろうと漠然と確信を抱いているバルド。そんな小さな男ではない。そうでなければ彼も執著はしないのだ。

「彼らは飲むだろう。その場合一切の敬語は不要だ。わかるねバルド様?」

がばれる隙を與えてはいけないということだ。

かつてじたことがないほどの圧をけるバルド。

「わ、わかったぜ。ドリオス」

「それでいい。この件で褒めることはあっても叱責はしないと約束しよう。稽古でぼくが骨折したりしても、だ。普段から慣れておかないとぼろがでるからな。どうもヴァーシャは飲み込みが遅い」

「無理を仰らないでください……」

「さてバルド。まずはカストル直伝の剣稽古。君が継承者であることは疑いようがない。今ここで始めるぞ」

「今からですかい!」

半泣きになりそうなバルドに対して、同の瞳を向けるヴァーシャは無言を貫き通した。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

テウタテスの手できる機會などほぼありません。星エウロパの技星アシアにもたらされる可能があるのです。

ただコウも言及しているように兵裝はレールガンやコイルガンなど、炸薬を使わない電気を使った、原理自は制限も難しい単純なもの。

の多くは本のバルバロイたちにあるでしょう。

そして暗躍するヘルメス。いたずら以上謀未満、ということで悪巧みです!

危機がない組織のボスという意味ではコウ以上ですね。ひっかき回すことが楽しいというのと、かす喜びで全力です。

ヴァーシャの胃が破裂寸前!

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