《「最強」に育てられたせいで、勇者より強くなってしまいました。》第百八十二話 譲渡

ロンの口から提案されたのは、彼の集めた生命エネルギーをすべてヴォルムに譲渡するというもの。今までの話を聞く限り、そんなことをしたらロンは死んでしまうはずだが、それを避ける方法があるのだろうか。それとも、本當に死ぬつもりでそんな提案をしているのだろうか。

真意が分からない。困したヴォルムは思わず言葉を失ってしまった。どう反応すれば良いのか分からない。そうして黙っていると、ロンが補足説明を始めた。

「全部っていうのは、本當に全部だ。譲渡が完了した時點で俺は死ぬ。け取ったヴォルムは無事生命エネルギーを知できるようになるし、しばらくはエネルギーの殘量を気にしなくても良くなる。悪くない話だろう?」

確かに、ヴォルムにとっては利益しかない話だ。しかし、味しい話には裏があるというのが世の常。ロンがどんな思をもってこんな提案をしているのかが分からないと、いくら味しい話だろうと迂闊にけることはできない。

ここまでの會話で個人的にロンから恨まれているとか、怒らせてしまったとか、そういうマイナスの雰囲気はじられないが、そもそも生命エネルギーに目覚めた人間を遍く嫌っているみたいな事があるかもしれない。そう考え始めると悪いことを企む理由なんていくらでも思いつくし、初対面の男がどんなことを考えているかなんて、ヴォルムに分かるはずがなかった。

「……お前、自分が何を言ってるのか、分かってるのか? どういうつもりだ。俺が喜ぶとでも思っているのか?」

聞き出さなくてはならない。でないと、意図を知ることができないまま勝手に渡されて、勝手に死なれてしまう可能がある。

「もちろん、分かっているとも。それに、命の価値については、エネルギーをんな事に利用してきただからね、普通の人間よりは重くとらえているつもりだよ。その上で、死ぬことを厭わないって言ってるんだ。でも、それはヴォルムのためにってわけじゃない。全部自分のため。端的に言うと、死にたいのさ、俺は」

死にたい。その言葉を理解するのに、いくらか時間がかかった。だって、おかしいではないか。生命エネルギーをよそから持ってきてまで生きようとしていたはずなのに、急に死にたいだなんて。そんなのが本心だとは信じられない。もっと他に思があるはず。そう思って続きはないのかと睨みつけるが、ロンは真剣な顔でこちらを見るだけで、それ以上の子とは話してくれなかった。

「はは、理解できないって顔だね。まぁ、ヴォルムは何としてでも生きて、し遂げたいことがあるからなんだろうけど、そうじゃなくても、本気で死にたいだなんて思っている人はそう多くはいないだろうね。いないっていうか、本気ならもう死んでる。で、俺の話だけど、死にたい理由は単純明快、ただ生きすぎたってだけ。これでも五百年とか生きてるからね。やりたいことはやりつくしちゃったし、友達もみんな死んじゃったし、新しい発見もないし、生きていても楽しくない。でも、集めた分のエネルギーはあるから、そう簡単に死ぬこともできない。これを勝手に放棄しちゃったら、元の持ち主に申し訳ないからね」

「それで、俺に白羽の矢が立った、と」

「そういうこと。さっきも言ったでしょ。ヴォルムが百年ぶりなんだって。このチャンスを逃すと、次はいつになるか分からないから」

きっと、ロンは本気で言っている。本當に生きているのがつまらなくて、本當に死にたいと思っている。なんなら、今までに何度か死のうともしたのだろう。しかし、そこまでしたのにエネルギーへの執著がやめられなかった。だから、殘ったエネルギーが勿ないからとこうして託そうとしている。

いや、執著がやめられなかったのではない。これが生命エネルギーの力なのだ。本當は死にたいと思っているのに、何かと理由を見つけてそれを拒む。生きるためのエネルギー。あるいは、生きることを強要するエネルギーと言っても良いかもしれない。その存在を知ってしまった人間は、その力に振り回される。そういう運命なのだ。

「言い分は分かった。一応確認だが、本當にそれ以上の理由はないんだな? 何か悪いことをしようと企んでいるわけじゃないんだよな?」

「ああ、こうやって接したのも、生命エネルギーについて々と教えたのも、全部自分が安心して死ぬためだ。それ以外の理由も思もない」

ここまでの話を聞いて、ヴォルムはそれならばけ取っても良いかもな、と思い始めていた。いや、正確には最初からけ取る以外の選択氏はなかったが、納得してけ取ることができるようになった、と言った方が良いだろう。この話には大きなメリットがあるし、この話を蹴るとヴォルムはいつ死ぬか分からない狀態で今後過ごしていくことになる。自分で知することができないほど量になってしまったエネルギーを補給するには、ここでけ取るしかないのだ。

「……分かった。け取ろう」

ここまで來たら、ヴォルムも覚悟を決めるしかない。たとえ妙な細工をされて不利益を被ることになったとしても、それ以上に大量にエネルギーを得られる機會を逃すわけにはいかないのだ。

「ありがとう。ようやく役目を終えることができる。そんな気分だよ。ところで、リフィルだったかな、君は俺が死のうとしているのを止めなくても良いのかい?」

リフィルは元々、教會の修道だ。基本的にああいう場所では自ら死ぬことを良しとしないような印象があるのだが、ここまで彼は黙っていた。何か事が、あるいは、考えがあるのだろうか。

「本來は、死にそうになっている人や死にたがっている人を救済するのが教會の役目であり、それに照らし合わせるのなら、止めにらなければならないのかもしれません。でも、ロンさん、あなたは特殊すぎます。生命エネルギーというものの存在もです。正直、理解が追い付いてません。ただ、一つ言えるのは、あなたを生かせばヴォルムさんが死んでしまうということ。どちらかが確実に死ぬのなら、死にたがっているあなたに死んでもらって、生きたがっているヴォルムさんに生きてもらうのが良いのかと」

「全部渡さずに両方生きるって道もあるけど?」

「そんなことする気はないんでしょう? するくらいなら、別の人を探すか、あるいはもう相手に候補があるんじゃないですか?」

「うーん、別にそんなことないんだけど、まぁ、確かに中途半端をするつもりはないし、譲渡をれてもらえた時點で勝手に全部渡すからね。

関係ない話だったかもね」

それを聞いて、リフィルは嫌な顔をした。やはり、人が死ぬのを見過ごさなくてはならない現狀を良く思っていないのだろう。

それでも、もう二人は止まらない。

「それじゃあ、そろそろ全部託してやろうかな。余計なが湧く前にさ」

そう言ってロンはヴォルムのに手を當てた。瞬間、ヴォルムは何かがそれを伝ってってくるのをじた。

「君たちのみが葉うことを祈っているよ。じゃあね」

最後にそう言って、ロンのから力が抜けた。

満足げで、穏やかな表をしていた。

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