《現実でレベル上げてどうすんだremix》男三人寄れば……?
■
夏休みもいよいよ後半にさしかかる、そんな折。
俺はというと今日も廃工場へ……ではなく、訪れているのは別の場所。
平日、早朝、通勤客でごった返すし前くらいの、Q駅構。
とはいえところ変われどやることは変わらず、今朝ここへ來たのはmagicの試用、
というか実用のため。
使おうとしているのは〔業寄〕
その効果は“対象のEXPの吸収”
この魔法を普通の人間――“Lv:0”相手に使った場合、吸収できるEXPは一律1。つまりは殺した場合と同じ。“レベル持ち”相手にはまだ試せていないので効果のほどはわからないが、
要はこの魔法があれば、レベル上げに人を殺す必要はもうないといってもいい。
……こうなるとこれまで殺した奴らに無駄死にが出てきてしまうが、彼らが死ななければここまで俺のレベルは上がらず、〔業寄〕も覚えられなかったわけで……なかなか、世の中ままならないのだなあ。
ちなみに〔業寄〕は、どうも対象一人につき効果は一度きりらしい。一人の人間から二度EXPを得ることはできず、だからたとえば、以前殺した“レベル持ち”を〔蘇生〕させても、この魔法の対象にはできない。“レベル持ち”相手にはまだ試せていない、というのも理由はそこ。
ともあれ普通に単発で使うのでは、効果はそれこそ雀の涙な、この〔業寄〕
しかし【広域化】があれば話は別だ。レベルが上がったせいか【広域化】の有効範囲はまたかなり広がっている。ゆえにこういった人手のある場所でなら、かなりの効果を期待できるだろう。
と、思っているはしから徐々に増えていく通勤客。休み期間でなければここに通學客も加わるのだろうが……そこまでむのも贅沢か。てか平日に來たら遅刻する……いや今の俺なら走れば間に合うか? でもそれはそれで面倒そうな……
余計な考えはうっちゃって、魔法の発準備を。
〔業寄〕にも當然のように、使用の際は視覚効果が付隨する。だからそのまま使うと、対象から俺へ妙なの粒子が吸いこまれていく怪現象を観測されてしまう。
なので使用の際には〔影無〕と〔消音〕を自にかけねばならない。加えて、他者になんらかの干渉をした場合〔影無〕の方は解けてしまうので、どこかへを隠しておく必要もある。
適當な柱のなんかでもいいが、〔結界〕の方がより無難だろう。
人が通らなそうな壁際に立ち、視認を遮斷する〔結界〕で周囲だけ覆う。
これならば、俺が現れたり消えたりする珍事も目撃されずにすむ。
これらの処置を施し、事ここに至る。
構を行きう人の流れを眺め、
頃合いをみて、【広域化】と〔業寄〕を発――
てててててててて……
〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ〈レ……
そんなこんなで、
――status――
name:久坂 厳児
age:15 sex:M
class:―
cond:通常
Lv:99
EXP:4949 NXT:―
HP: 599/ 599
MP: 257/ 257
ATK:677
DEF:479
TEC:241
SOR:673
AGL:587
LUC:Bad
SP: 4950/ 4950
――magic――
〔治癒〕〔蛍〕〔浄化〕〔火炎〕〔雷鳴〕〔氷結〕
〔賦活〕〔解除〕〔防壁〕〔睡眠〕〔瘴毒〕〔消音〕
〔醫療〕〔守護〕〔障壁〕〔衝撃〕〔影無〕〔幻奏〕
〔悠揚〕〔彩〕〔放棄〕〔魔玉〕〔幻影〕〔暗闇〕
〔天恩〕〔示現〕〔曝〕〔吸魔〕〔影〕〔魔封〕
〔蘇生〕〔極〕〔城塞〕〔即死〕〔隕星〕〔業寄〕
〔仮初〕〔製薬〕〔注〕〔収納〕〔念〕〔鈍速〕
〔獣化〕〔読心〕〔錬魔〕〔替〕〔歩加〕〔不〕
〔〕〔忘卻〕〔反転〕〔転移〕〔結界〕〔倍速〕
〔塩柱〕〔自〕〔核熱〕〔復元〕〔反〕〔停止〕
――special――
【防】【回避】
【鹿音】【八卦酔】
【手加減】
【広域化】【次連魔】【三倍座】
【霊召喚】【降臨】
【警戒】
【威圧】【挑発】
【見る】
【骨】
【マッパー】【マーカー】
何度か【広域化業寄〕を試みていたら、Lvが99に達してしまった。
「……」
ちなみに88の時點で、
ぽろりーん
〈すべてのちからをしゅうとくしました〉
という音聲が。
また最後の〔業寄〕時には、
でぃろりりーん
〈レベルがじょうげんにたっしました〉
といった音聲が、それぞれ流れた。
(……って、終わっちまったじゃねえか)
レベル上げ、期せずして終了。
さすがに、しばし唖然。
通勤の時間帯はすでに過ぎ、人手も落ち著いている駅構。
現在の俺には〔影無〕も〔消音〕もかかっていない。
當然〔結界〕も解除済みで、普通に適當なベンチに座っている。
「……腹へったな」
通勤客を待ち構えるため早起きし、朝食も摂らずにここへは來ていた。
それを思い出して立ち上がり、併設のコンビニへのろのろと向かい、サンドイッチなどを買いこんでまた元の場所へ。
包裝を開け、もそもそと食し、
合間合間にコーヒー飲料をすするのを、しばしくり返す。
「……」
気が抜けているのかもしれない。
と、なんとなく思う。
レベル上げが終わったからだろうか。最初のころは途方もない手間――どれだけの人間を殺せばいいのやら、などとも思っていたものだが、いざ終わってしまうとそうでもないというか。なくとも、當初思ったほど大変でもなかった、というのが正直なところ。
慨、というほどでもない。というか、慨は違うか。
なんだろう。
あえて言葉にするなら、『まあ、こんなもんか』だろうか。
なに考えてんだか。
なにも考えてないに等しい。
「――あれ、久坂?」
不意に、俺を呼ぶ聲。
見ればこちらに近づいてくる、見知った顔二人。
「賀集に、大滝か」
「奇遇だな。久坂もどこか行くのか?」
見たまんまその名を口にする俺。
ずっとぼうっとしていたせいか、返す賀集の問いかけにもすぐに返事ができない。
まあ、そうだよな。駅というのは大抵、これからどこかへ向かう人間が來るところだ。駅ビルも併設されているからそちらに用事の場合もあるだろうが……
そう思いつつ視線をかすと、目についた時計は九時半をしめしていた。
……そんなぼうっとしてたか。俺。
見ればサンドイッチの包裝なども、いつの間にか手元にない。捨てるために一旦はごみ箱まで行ったんだろうが、いまいちそんな覚えがない。
「ああ、それとも誰かと待ち合わせとか、」
「か?」
「!」
俺が時計に目を向けたのに気づいたのだろう賀集の問いかけ。
そこへ大滝が重ねた邪推に、なにを思いすごしたのか、はっとするのは賀集の方。
「別に。暇だから、なんとなく出て來ただけだ」
「そ、そうか」
「フラれてすっぽかされたわけではない、と」
「こらスグ!」
俺の一応の訂正に、わずかな安堵をみせる賀集。
それから若干楽しげに混ぜっ返す大滝へとつっこみ。
ふと、こいつらが漫才やったら學校でけそうだなあと、無責任なことを適當に思いつく。
「ったく……それで、俺達がこれからq市の方まで遊びに行くとこだけど」
「暇してるんならお前も一緒にどうだ? 久坂」
二人から投げかけられる提案。
ちなみにq市というのはここから四駅ほど離れた、県で二番目くらいの規模の街。県庁所在地のQ市(こちら)の方が発展はしているが、あちらにしかない店や施設もあるので、休日に出かける學生もなくはないというじの場所。
ともあれ、俺は二人のいを――
――いつものとおり、深く考えずにけ同行。
「そういや、お前らはなにしにq市(こっち)に?」
「著いてから聞くのか……いやまあ、別にはっきりなにしに、って目的はないかな」
「適當に、U通りなんかをぶらついてみよう、ってくらいか」
駄弁りながら駅西口を出て、さらに西へ。
話に出たU通りとその周辺は、服屋や古著屋が多く若者がたむろする地域という印象。
「久坂はこのへん、來たりするのか?」
「あんまり、だな。俺は二人ほどお灑落さんじゃねえし」
「そう、かな? 久坂も、センスは結構いい方じゃないか? 今日もそうだし、あと旅行の時も、――いやそんな訝しそうな顔しなくても……」
會話の中での、不意の賀集の指摘。
それに思わず胡な表を返してしまうが……
し考え、思い當たることひとつ。
「ああ、そりゃ別に、俺が灑落てるわけじゃなくて、うちの家族がだな。たぶん」
「親が買ってきてるとか、か?」
「や、選ぶのも買うのも自分でだが――」
久坂家は両親も妹も、顔のみならず的覚も優れている。だから俺はただその最も近な手本を參考にしている……というか、覚そのままをほぼ丸寫ししているだけにすぎない。
「けどキチンと參考にできるってことは、やっぱそれは久坂自のセンスなんじゃ――いやだからなんでその顔だよ信じてやれよ自分のをっ」
「自分ほど信じられない存在が、この世にいるだろうか」
「すごいこと言い出したな。しかし、久坂の家族というのは、そんなになのか? 古幸もなにやら騒いでいたが……」
「ああ、“反則的に綺麗でカワイイ!”とかなんとか言ってたな」
「たとえば俺たちが『紹介してくれ』と言ったら久坂、どうする?」
「手前(てめえ)で接點作れ。一応言っとくが俺をだしにすんなよ? 間違いなく嫌な顔される」
俺のから家族のことへと、話は流れで移る。
彌にかけるかのような大滝の言い草だが、調子からして本気度は低そうだ。それでももし実際に口説くとしたら、どうか強い心を持ってほしい。なにを言われ、どんな目を向けられても折れないくらいに強い心を。
(まあ、こいつらだったら普通に頷きそうでもあるが)
などと思っているところへ、ふと、
「あのぉ~」
背後からかかるのは、やや甘ったるめのの聲。
「――あ! いきなりゴメンねぇ? あのさっ、キミたち今ヒマ? なくとも急ぎの用事ってカンジじゃーないよねっ?」
「わっ、イッケメン……」
「めっちゃ背ぇ高~い」
振り向くと一人ではなく、そこにはの三人連れ。
俺たちよりもし年上だろうか。意外にと言ったら失禮かもしれないが、見た目に軽いじはない。むしろ服裝だけでいえば、落ち著いた印象のお灑落さん達。
「ねね、キミたち地元のコだよね? 私らもひさびさに帰省してきたんだけど、結構お店れ替わってるじなんだよねーこのあたり!」
「だから案してもらえたら、お姉さんたちとっても助かるな~って」
「どうかな? お願いできない?」
「いやあの……」
「ああ、っと」
これは、あれか。
もしかしなくとも派、いや逆ナンというやつか。
なんだか既視のある景だなあ。
(あっ、久坂お前、また一人離れたところにっ?!)
(あからさまに我関せず、みたいな顔で――!)
妙な心をしていると、賀集らからそんなじの視線を送られる。いや実際、お姉さんらの標的は明らかにお前らで、こっちにゃ特別注意を払われていないし。
しかし二人とも、案外余裕がなさそうだ。異に言い寄られるのなんて慣れてそうなものなのに……相手が年上だからだろうか。大學生くらいの人との接點とか、なければないだろうし。
たじたじな男らを見ているのも面白いが、
そろそろ助け舟くらいは出してやった方がいいか。
「あの」
そう思い、そうする。
お姉さんらに「あれ、こんなのいた?」みたいな顔をされたが、気にせず構わず。
「じつはこいつ今、懸想中の子がいまして。だからどうか、そのへんにしてやってください」
「!?」
賀集を指しながら言葉を続けたら、案の定その當人にぎょっとされた。
事実だけに、迫真の反応。
「あー、そっかそっか! それはたしかによくないかぁ」
「そのコに見られちゃったらマズいもんねぇ」
「ゴメンねー? それと、ガンバれッ、するオトコのコ!」
そのせいか、案外あっさり引いてくれたお姉さんら。
生溫かい目線のまま、終いには応援の言葉さえ殘して去っていく。
思いの外、いい人達だったのかもしれない。
不意に肩を、がっちり指が食いこむくらいに摑まれる。
「久坂……お前……っ!」
案の定、賀集であった。
見ればいわく言いがたい表の整った顔立ちが、間近に。
「どういう顔なんだ? それ」
「俺も、正直よくわからないっ……助けてもらったのは事実だけど、でも間違いなく素直に謝はできないというか……っ! ってかどうして気づいて、とか、お前がソレ言うかっ? とか! ……~~~ッ」
「落ち著けカゲッ。いや、ここで落ち著けと言うのは酷か……」
親友の変調に、さしもの大滝も困を隠せていない。あと俺への畏怖みたいなものも見え隠れ。さすがにこれはやらかしたか、という空気も。まあわざと踏み抜いたので、むべなるかな。
その後、しばし賀集はし面白いじで頭を抱えていたが、
「――はぁっ! ……もう、今日、久坂、あとでなんか奢れ!」
ややあって口にしたのは、そんな要求。
「いつになく強気」
「このっ――いや、うん。久坂ってこんなじだよな……まったく」
最悪毆られるつもりで茶目を返したが、最終的には呆れられた。
やはりつくづく、人の好い男である。
「さて、気をとり直して、見てまわるか。なに奢ってもらおうか……」
「そういえば、最近アイスクリームの屋臺が來るという話だな、この界隈」
「あれ、これ大滝にも奢る流れか? 別に構ねえけど」
そうしてその後は服屋などをひやかしたり、アイス食ったりなどして、
男三人、それなりに賑やかに、
ひさしぶりなじの乗りで、俺は過ごすこととなった。
既視、また、についても……たぶんいずれ書きます。
そして新アカウントでは初のレビューをいただいておりました。
想ともども、謝謝です。
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