《【書籍化】中卒探索者ですけど今更最強になったのでダンジョンをクリアしたいと思います!》第2-17話 囲い込まれる探索者!

「聞いていますよ。ハヤトさんの活躍」

「……それはどうも」

“本家”が直々にやってきているとあって、分家筋の連中は何一つとして口を開かない。ハヤトとて同じ立場にあるなら口を固く閉ざしていただろう。

だって、巻き込まれるの嫌だし。

「それに、天原の家がハヤトさんに何をしたのかも」

「……さいですか」

「それで、お話があるのですけど」

「……何ですか」

「ハヤトさん、“草薙”に來ませんか?」

「……ちょっと意味がわかんないです」

「そのままですよ。2年間という月日を経て努力の果てにたどり著いたその境地。是非、“草薙”にしいのです」

ちらりと、周りを盜み見したが分家の連中は一つとして顔を変えずにじぃっとハヤトを見ていた。

お前ら全員、この話知ってんのかい!

何だか悪質なドッキリにかかっている気分である。

「だから意味が分かんないんですって……それは“草薙”の養子にれということですか?」

「いえいえ、ハヤトさんもいい歳。是非、うちに婿りしてしいのですよ」

ちらり、とアマネを見るとテンションが上がっているのを必死に抑えていた。今すぐにでも「流石です! 兄様!!」とでも言ってきそうな勢いだ。

いや、ここ數年まともに喋ってないからそんなことを言ってくるかどうかなんて分からないが。

「婿り……ですか」

「ええ。あの“守銭奴”共に奪われるのには何とも惜しい逸材ですから」

「………………」

ううん。何と言おうか。

《良いじゃないか。そのままお前の考えていることを全部さらけ出せよ》

(いや、でも……)

《お前はもう“三家”の人間じゃない。普通の人間なんだ。言いたいことを言っても咎められない》

ヘキサの言葉にハヤトは心の中で深くうなずくと口を開いた。

「ありがたい話ですが、お斷りさせていただきます」

「理由を伺(うかが)っても?」

「俺は……探索者です。2年間、芽が出なくても探索者だったんです」

「探索者を続けたいと? それでしたら何も関係ありません。しいのはハヤトさんではなく、ハヤトさんの種ですから」

「……その2年の間、一向に芽が出なかった中、俺を救ってくれた人が居たんです。俺は、その人に報(むく)いたい。助けてくれた恩返しをしたいんです」

《えっ……?》

思いもしていなかったハヤトの心を聞いて戸うヘキサ。

「だから、草薙には來られないと」

「えぇ。端的に言うとそういうことですね」

「は、ハヤト君。凜さんの言う通り、探索者を続けながらでも草薙にれるんだよ?」

「そうですよ、兄様! 本家にれるんですよ!?」

タイガとアマネがそれぞれの理由でハヤトを丸め込もうとしてくる。

「俺は……もう“三家”の人間じゃないですから」

「その決定は先日、覆りました。現(・)當主様が是非とも貴方を迎えれたいと言っているのです」

「現(・)當主……?」

ハヤトが首を傾げていると、

「そうか、ハヤト君は知らないね。本家の當主様は去年代わったんだ」

仁がそう優しく教えてくれた。

「か、代わったって」

つーことはあの姫様が當主になったってこと!?

「だから、帰ってきても良いのですよ。ハヤトさん。貴方が気にすることは何一つとしてないのです」

「……あー」

困った。これは本當に困ったことになった。

ハヤトを天原から追い出した父親はぼっこぼこにされて、本家筋が戻ってこいと言ってくる。探索者を続けたいと言っても、しいのはハヤトではないのでハヤトの種さえ提供すれば探索者は続けられるだろう。

どうやって種を提供するのかの方法が分からないから、それがよりいっそう恐怖をあおりたてる。

けれど、正直言ってそんなことはハヤトにとってどうでも良いのだ。

何故ならこれは――彼の意地(プライド)に関わるものなのだから。

「本音をぶちまけても良いですか?」

「良いですよ」

「俺は、2年間も苦しい時間を過ごしてきました」

「えぇ。聞いています」

「金もなく、知り合いもいない中に放り出されて何とか生きてきました」

「はい。大変だった思います」

「だから、有名になってから急に戻ってこいなんて言われると馬鹿馬鹿しく思っちゃうんですよね」

「兄様!!」

アマネの言葉を手で制す。

「俺を馬鹿にするのもいい加減にしろ」

ハヤトは抜きのナイフのように殺意をもって言葉を吐き出した。

「この2年ひとつの援助もなく、ひとつとして連絡を寄越さなかった連中に力がしいと言われて『はい。そうですか』と貸す奴が居ると思うか?」

「それは……」

「お前ら戦いすぎて頭ン中おかしくなっちまったんじゃねえのか」

《馬鹿! 言いすぎだッ!!》

一応バランスを取ろうと思っていたヘキサが突っ込む。

(……やっべ。何にも考えてなかった)

「なるほど。ハヤトさんの言葉も尤もです」

勢いに任せて言いたいこと言ったハヤトは顔面蒼白。

対する凜は和な表を一つとして崩さない。……それが恐ろしい。

「言葉にしてみると図々しいと思うのも確かなことです」

そうして、笑顔のまま、

「しかし、ハヤトさん――――言葉を見誤ってはいけませんよ」

その瞬間、凜がピリリと恐らく1%にも満たないだけの殺気をほんのちょっとだけ放った。

剎那、

(……ッ!!)

ズンッ!! と、腹の底にまで響くような恐怖がハヤトを毆りつけた。ハヤトだけではない、護衛の中には腰が抜けている者もいる。

としての本が違う。

そう思ってしまうほどの源的な恐怖。『忌の牛頭鬼《フォビドゥン・タウロス》』と対敵した瞬間だってここまでの恐怖はじなかった。脂汗が額(ひたい)に滲み、手汗が手を伝わっていく。

“草薙を人間と思うな”

誰の言葉だったか定かではないが、確かにそう言われた。

の中心に力をれていないと今にも足が震えだしそうになるほどの絶対的な怖気。殺気だけで場を制圧した暴帝は哂う。

“【強化Lv3】【颱(かぜ)の調べ】【ブラディリアの咆哮】をインストールします”

“インストール完了”

急事態にスキルインストールが勝手にスキルをインストール。

臨戦態勢へとが移り変わる。

「ハヤトさん。あなたに戻ってくるか、來ないかの選択肢があるわけではありません。貴方に、戻ってこいと言っているのです」

凜の放つ圧倒的な威圧に、誰も何も言えなくなっていく。

有無を言わせず、ハヤトを草薙に取り込もうとしている。

しかし、

「……舐めるなッ!!!」

ハヤトのびがそれを打ち消した。

「戻って來させたいならそれなりの條件を提示するのが道理のはずだッ! 俺が“三家”にっても良いと思えるだけの、な」

「…………」

「それが出來ないは絶対に戻らねえからなッ!」

そう言ってハヤトは踵を返して外に出る。そして、音を立てて扉を閉めた。

ハヤトに向けられる殺意はその瞬間にふっと消えた。

《…………》

(………………)

《やっちゃったな》

(やっちゃったよ……)

《どうするんだ?》

(どうしよ……これから……)

とりあえず言いたいことを何も考えずに全部ぶちまけてしまった。

《言いたいことは全部言えたか?》

(まぁ、それは……)

《なら、良いだろ》

(良いのかなぁ…………)

《うまい飯でも食いに行くと良い》

(……そうすっか…………)

時間がたつほどに自分がとんでもないことをやらかしたのではないかと思ってしまうので、いったんそれを無視。心の奧底の適當なところに放り投げておく。

それで、気分転換を兼ねて晝食を取りに行くことにした。

《行きたいところはあるのか?》

(俺、実は挑戦してみたいところがあるんだよね)

《ほう?》

現実逃避気味にハヤトは無理やりテンションを上げると、ひそかに楽しみにしていたことを口に出した。

《ハヤトが挑戦というとは相當に珍しいな。何を食べるつもりだ?》

(二郎だ)

《おぉ…………》

その後、ハヤトは一切『JESO』にらず、り口付近で咲が出てくるのを待ち、合流してから駅に向かった。

「どうでした? 表彰は」

帰りの新幹線に乗り込み席に座った瞬間、咲はまっさきにそのことを聞いて來た。

「まあまあでしたよ」

張せずに出來ました?」

「いや、変な汗かきっぱなしでした」

今もかいてるけど。

「咲さんはどうでした?」

「すっごい張しちゃいましたよ! でもその後の講習の方が張しました。數十人相手に教えるんですもん。先生になった気持ちでした」

「咲さんが先生ですか。良いですね。似合ってますよ」

「本當ですか? 実は私、子供の頃の夢が學校の先生だったんですよね」

「可らしいじゃないですか。何でまた「付嬢」なんかに?」

「逃げるため、ですかね」

「何からですか?」

「親からです」

その時、ハヤトは隣に座っている咲の顔を見た。

その顔には何一つとして表が浮かんでいない。

「なーんて、冗談ですよ。びっくりしました?」

「……滅茶苦茶びっくりしましたよ」

「本當は、探索者って人を近くで見たかったんです。まだ私の時は探索者の方は死にやすいっていう風なイメージだったので、どうにかして殉職率を下げたいと思いまして」

「立派ですね」

んな人に出會うことが出來ました。まさかって一か月で年下の子からナンパされるとは思いませんでしたけど」

「……申し訳……無いです……」

やめてー! 黒歴史掘り返さないでぇー!!

しばらくして、新幹線が駅に到著した。

「降りましょう。ハヤトさん」

すっかり空は暗くなっており、ホームのに負けないように満月が輝いていた。

「では、また明日」

咲の家はこの駅の近くなのでここでお別れだ。本當は送っていこうとしたのだが、それは咲から丁寧に斷られた。

「お疲れ様です」

そう言ってハヤトは咲を見送った。

ハヤトは次の電車が來るまでに飲みを買おうと近くのコンビニろうとした瞬間、ふと一人のが目にった。

背はとても低く、とても痩せこけていた。長だけいうならエリナと変わらないくらいかも知れない。全をGUなどのファストファッションに包み、ぼろぼろになった大きなカバンを地面において地図を必死に眺めている。

それもこのご時世珍しい紙の地図だ。ふと、地図から顔を上げたとハヤトの目が合った。

「あの!」

ハヤトは周囲を見渡して、が自分を呼んでいるということに気が付いた。

「ギルドってどこですか?」

がそういった瞬間、彼のお腹が大きく鳴った。

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