《ネメシス戦域の強襲巨兵【書籍六巻本日発売!】》トラクタービームの使い方

バイソンはすかさずライフルと左手に高周波ブレードを構えローラーダッシュと歩行を頻繁に切り替え、距離を詰める。

対するベアはレールガンから武裝の変更はなし。

ダメージレースではバイソンが不利。近付いて近距離戦を仕掛けるつもりだった。

ライフルの有効程まではまだ遠い。攻勢に出るバイソン。

「このまま20分経過するとベアの勝ちか」

「そうだ。ボクシングじゃないが互いに有効打がなければ、手數が多いほうが優勢とされる」

このままいくと、ベアが逃げ切りとなる。

無理に攻める必要もない。シルエットは正面を向いたままの後退速度が遅いことが欠點。しかしここまでダメージを與えると相手をかした方が有利。

相手は距離を詰めるリスクを全面的に背負わないといけないからだ。行のイニシアティブは、攻勢側の行を見て決定できる守勢側にある。コウ自もこの一方的にイニシアティブを相手が有するリスクを嫌い、五番機を加速特化にしていった経緯がある。

一対一だと浮き彫りにされる特であり、部隊運用では必要とされない要素でもある。

バイソンはようやくベアをに捉えた。

こそバイソンのライフルは有利だが、元來軽ガス兵は初速が不安定という欠點を持つ。その欠點を調整するため、初速を控えめに設定されているのだ。

ウィスによる高次元投裝甲においては、點の攻撃となる砲撃は有効が落ちる。しかし高周波ブレードならば、その不利も関係が無い。線の攻撃は高次元投裝甲にも有効だ。

しかし、その起死回生の一撃も無効化される。バイソンが吹き飛び、膝をつく。

背面から有線の対戦車ミサイルを取り出したベアが、至近距離から発。対戦車ミサイルはバイソンの腹部へと直撃した。

軋む音を立てながら、転倒しないようにバランスを取るバイソンだが、ベアのレールガンを至近距離にけもはや機は限界だ。

「まずいな」

コウがそう呟くと、バルドは意味ありげににやりと笑う。

『――終了』

その聲と同時に、バイソンが吹き飛ぶかのように壁まで吹き飛んでいく。

そのまま放り込まれるかのように、格納庫に収容された。

「あれはなんでえ。あれが救命措置ってやつか」

兵衛も初めて見る事象。強引な牽引による救助である。

「そういうことだ。トラクタービームという技らしいぜ」

「あれを使っているのか!」

ハルモニアも導された、牽引技。パライストラに転用し救命措置にしているとは思わなかった。

星リュビアでも、トラクタービームによる干渉合戦には遭遇したが、こんな利用方法は予想外なコウだった。

「とんでもねえ代だぜ。シルエットが木っ端微塵になったとするだろ? あのトラクタービームがMCSだけをぶっこ抜いて格納庫に放り込むんだ。いったいどんな技ならそんなことが可能なんだってな」

「技の無駄使いだな」

「しかし、あれでも完璧じゃねえ。思いがけない一撃で救助が間に合わない場合もある。當然死んだヤツはたくさんいるぞ。そういう意味でも早めの降參は大事だってことだな」

「そういうことか」

降參意志を示せばトラクタービームは発するのだろう。しかし実力が拮抗した、僅差の勝負なら? お互い負けを認めなければ? ――トラクタービームが間に合わない戦闘も當然出てくるだろう。

「なんてえ場所だ。しかし――悪趣味だが面白えな」

兵衛が笑う。時代劇の前試合を思い出す。

「だろ?」

バルドが愉しげに笑った。彼は自分を含めてこの場にいる三人は、なくともこんな対決を愉しいとじる猛者ばかりであることを、誰よりも知っている。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「大損しちまったなァ……」

調子に乗って賭けまくった兵衛が落膽の聲をらす。

「兵衛さん。熱くなりすぎです」

「お前、賭け事には弱いタイプだったんだな。意外だぜ……」

苦笑するコウと、意外な面をみて呆れるバルドだった。戦闘では冷靜なくせにギャンブルだと熱くなるようだ。

コウはそもそも賭け事をしない。バルドも勝てると見込んだ時にしか賭けないタイプのようである。これはこれで三者三様だった。

「いやはや。勝負事だがシルエットだからな。思わずしちまうんだ」

「それはわかりますが」

コウはしかし、別のことで呆れていた。

「バーンは商業主義が過ぎるな。まさかオープン後にはシルエットの戦闘データまで販売するとは。観賞用と企業用だが…… これはどうかな」

「実際売れると思うぜぇ。諸兵科連合運用に役立たないにしてもな」

コウの呟きに兵衛が兵運用には向かないと斬り捨てる。

「兵なんて絶対出てくるからな。それを埋めるのが各兵科だぜ。とはいっても、俺はこっちのデータのほうが興味あるがね」

「言われて見るとウンランさんやケリーさん向けですね」

「個人の観賞用ってのもなかなかありだぜ。何せ実戦だ。個のきには役立つ」

三人とも構築技士でありパイロットでもある。データを軽んじたりはしない。

「あとはそうだな。この一帯周辺に、中古シルエット市場が集中しそうだな、意図的かどうか不明だが考えやがったなあ。こんな処理の仕方があるのか」

「中古市場が需要によって小すると?」

「そういうこったな。傭兵がここに集まり、パイロクロア大陸やスフェーン大陸はし収まるかもしれんぜ。バーンってヤツがそこまで見據えてたかはしらんがな」

「俺は戦爭が減って困るがね? それにだ。中古がなくなったらお前らがわんさかこさえた最新機とれ替わるだけだぜ」

「そうはいうが最新機はコストが跳ね上がる。理論値極めた最新鋭兵を揃える軍隊なんざ無理ってもんよ。數が必要だった時代と違って、高能機同士の技競爭の面がでるってのは地球の歴史でも証明してらあ」

「そうか。質が上がり、より高度な戦爭になるわけか。俺はそっちがいいぜ。雑魚は倒しても甲斐がねえからな」

「そりゃそうだろうさ」

バルドとヒョウエは本當に敵同士なのかというぐらい、會話している。

今は敵ではないが。――否。そう考えてしまうこと自が自分の甘さなのだろう。コウもこれぐらい割り切る必要があると自ら言い聞かせている。

「うまくやってるよなぁ。しかもリゾート地にもなるんだろ? ここ」

「バーンの説明によるとローマを參考にしているらしいからな。當時のローマ剣闘士も八割奴隷、二割が自由民だったらしいからな。規格外なヤツがいて、皇帝自ら出場した記録もあるそうだぜ」

「時代劇じゃねえんだからよ……」

「観名所みたいに説明するんだな」

「本來の目的はそっちだろうな。だからローマに倣ってアンフィシアターとパライストラ以外はギャンブル止なんだぜ。カジノでも作ればいいのにな」

「しかし金が集まったらも集まる。あとはどう宣伝するかだな」

ヘスティアの計畫を知っているコウは、黙って二人の話を聞いておくことにした。

綿な計畫なのだろう。兵衛の中古兵集約の推測を聞き、実は興行や商売の神を模した超AIではないかと疑い始めていた。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!

トラクタービームの邪道な使い方ですが、実はこのために用意されていた代でもありました。

闘技場で死者大量に出たら、戦場と大差ないしね! それでも死ぬときは死にます。ヘスティアは萬能にはほど遠い存在です。

バーンことヘスティアの商材はここにもありました。実戦データです。報商材で重要なのは速報と実數、そしてどんな狀態でどの數字を出したかの分析です。

戦爭には使えない代ですが、個の能にこだわるタイプがいる構築技士がいるのも事実。

ヘスティアの狙いもおいおい明らかになります!

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