《視えるのに祓えない、九條尚久の心霊調査事務所》何かがおかしい
夜になり仮眠を済ませた私は、近くのコンビニに歩き夕飯になりそうなを買い込み、九條さんを起こした。
あの寢起きの悪さが異常な九條さんをちゃんと起こせるのだろうかとドキドキしていたが、仕事中だからなのか九條さんはすんなり目を覚ました。いつもこうであってほしい。
二人で簡単に夕飯を済ませ、ようやくモニターの電源が付けられた。まだ寢室には誰もいなかった。
許可が降りているとはいえ人の寢室を監視するなんてどこか気分が悪いが仕方ない。
そして夜9時半を過ぎたところで、寢室に人がってきた。
パジャマを著た巖田さんとリナちゃんで、リナちゃんは寢る時でも犬のぬいぐるみを握っていた。
九條さんはまたポッキーをかじりながらそれを見ていた。
「子供は寢るのが早いですね」
「ですねぇ。巖田さんも一緒に寢るんでしょうね。親子ってじ」
目を細めながら二人を眺めていた。巖田さんはベッドにり込み、リナちゃんを呼んでいる。
リナちゃんはしの間ベッド橫でぼんやりと立っていたが、渋々と言ったじで布団の中にっていった。それを巖田さんがおしそうに抱きしめる。
溫かな家族の絵。……だが……
穏やかに見ていた気持ちがスッと落ちた。獨り言のように呟く。
「リナちゃんがあまり普通の子っぽくないから……なんか違和だなぁ……」
普通、6歳の子なら母親とじゃれ合い、會話をし、話せなくても笑顔で抱きついてもいいはずだ。
でも彼はニコリともせず、ベッドの中でをピンと真っ直ぐにしたまま臥床してるだけ。
巖田さんに寄り添っている様子がまるで見られない。
人形みたいだ、と思った。
「同ですね。何か神的ショックをけたとしても、ここまでなるのは余程のことでしょう。
やはり何か霊の仕業なのか……」
九條さんも同意し、獨り言のように呟く。
「話せないっていうのがまた困りますよね……リナちゃんから話を聞けたらもっと簡単だろうに」
「6歳なら多文字も書けるでしょうから、それをしようともしないなら伝える気がないんでしょうね」
「文字盤とか用意しても無駄ですかね?指差しだけで返事できるし」
「まあ、やってみてもいいのではないですか」
「明日やってみよう」
二人でそんなことを話しているうちに、寢室の電気が豆電球に変わった。九條さんが何かを作すると、暗視カメラに変わったようで暗くても二人の様子がわかる。
九條さんは攜帯を取り出して見る。
「伊藤さんからメールが來てます、ここの土地の歴史やマンション工事中の様子など、特に怪しいところは見當たらないようですね」
「うーん」
「やはり怪奇の噂などもなし、死人報もなし」
「そうですか……」
聞きながら、伊藤さんこういう調べどうやってやってるんだろうと疑問に思った。インターネットとかだろうけれど、短時間で調べ上げるには彼の腕があると思う。
九條さんはペットボトルの水を一口飲み、畫面を見つめる。その橫顔はいつもよりキリッとして見える。
「さて、夜中にうなされるというの正が映るか……」
午前2時32分。
私は仮眠も取ったのに襲ってくる睡魔と必死に戦っていた。九條さんとは代で監視をするようになっていたが、それでも彼の隣でぐうぐう寢る事も出來ず、私はコーヒーを飲みながらなんとか起きていた。明日はもっと缶コーヒーを用意しておこう。
閉じそうになる目をなんとかこじ開け、ずっと代わり映えのしない畫面を見つめていた。
リナちゃんと巖田さんはとっくに眠りについていた。今のところうなされる事も起きる事もなく、二人は睡している。気持ちよさそうな寢息すら聞こえてくる。
気合い十分で來たけど、やっぱり調査って大変だなぁ。1日目でそう思う。
チラリと橫を見ると、ポッキーを食べながらしばしの休憩をとっている九條さんがいる。彼は全く眠そうなじはない。ぼーっとしながら壁にもたれかかり、どこか空虛を眺めていた。
ほとんど無くなった缶コーヒーをしだけ飲んだ瞬間、きのなかった畫面が変わった。
「…………?」
私は手を止めて畫面に見る。そんな景にすぐ気がついたようで、九條さんは素早く私の隣に來て
同じように畫面に集中する。
暗い畫面の中央にあるベッドに眠る塊が、わずかにいている。モゾモゾと繰り返し、それは決して寢返りではないことがわかる。
そして同時に小さなうめき聲がスピーカーかられてきた。
『う……ぅ……あ……』
巖田さんの聲だった。眠気が吹き飛び、急に全が強張る。
ぐっと息を飲みその景を見守る。
ベッドの中の巖田さんは小刻みにいている。それは首だけがイヤイヤというように振られているためだった。そのほかの足や手は一切いていない。金縛りでけなくなっているのだろうか。
『うぅ……ん……あぁ……』
苦しそうに低い聲が響く。助けてあげたい気持ちを抑え、私たちは周りを集中して見た。
部屋の隅々。カメラは様々な角度から撮影している。出り口の扉、クローゼット、段ボールのられた窓、全てに目を配る。
「……何もいない……?」
九條さんが呟いた。私も必死に畫面を見るが、特に異変が見當たらない。
「黒島さん何か見えますか」
「い、いいえ……何も……」
九條さんが険しい顔で巖田さんを見ている。彼は未だうめき聲をあげて顔を時折振っている。私は焦りながらただ何もいない寢室の部屋を見ていた。
私も九條さんも、全ての霊が見えるわけではない。霊とも相というものがあるのだ。
だが私も九條さんも二人とも見えないだなんて……
「どうしましょう、一旦巖田さん起こしてあげましょうか」
「……そうですね、現場を見にってみましょう」
九條さんがそう決斷し立ち上がろうとした瞬間、彼のガラスのような目が丸くなった。畫面を注視している。
それに釣られて私も再び畫面に目を戻した。
暗視カメラで全的に暗く見える畫面に、一人の人間が映っていた。その人はベッドの傍で、苦しむ巖田さんの顔を覗き込んでいる。
ゾッとする。
今まで見てきた者たちとはまた違った不気味さ。
「……リナちゃん……?」
震える自分の聲が口かられる。
そこには、自分の母親が苦しむ様子をただ黙って覗き込んでいるリナちゃんがいた。その小さなを微だにせず、じっと巖田さんを見つめている。
異常だ。
この子は、何かがおかしい。
いくら神を病んでいたとしても、母親が隣で苦しんでいるのをただ見ているだけだなんて普通ではない。心配して起こすでもなく、泣くでもなく、あの子はただ巖田さんを観察している。
ぶるると全が震えたのを両腕で抑えた。暗視カメラのせいで瞳が白くって見える。それがまた、彼を不気味に演出する。
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