《めブルーム〜極甘CEOの包囲網〜》Bloom8 は盲目でも、【3】
* * *
翌週、會社でパソコンに向かっていた私は、ふと手を止めた。
「木野さん、このデータなんですけど、ちょっとわかりにくくて……。この集計、過去のものも一覧にして見れるものってないですか?」
既存のアプリの開発費が纏められたデータを開いたパソコンを指差せば、木野さんが眉を下げて笑った。
「あるにはあるんだけど、あんまり見やすくないのよ。いずれ一覧にしたいと思ってるんだけど、うちができてからの六年分のデータだからちょっと大変だし」
このデータは一見すればわかりやすく思えるけれど、會社名ごとに並べられていて日付や費用の大小がわかりづらい。これでも大きな問題はないものの、日付や費用によっても整理されたものを確認できれば、もっと効率よく業務を進められるはずだ。
「これ、私が作り直してもいいですか? 力作業だけですし」
「……そうね。ついでに過去にうちが手掛けた仕事も確認できるし、やってみる?」
許可をもらった私は、早速パソコンに向き直って取り掛かった。簡単な業務だけれど、初めてすべてひとりで任された。それが嬉しくて、張り切ってしまう。
「あ、社長。おかえりなさい」
その數分後、男社員の聲にハッとして顔を上げると、篠原さんとともに出先から戻った諏訪くんの姿が目にった。
「どうでした?」
「まずまずってところかな。あとで修正箇所を送るからチェックしておいて」
ふたりの會話が勝手に耳にってくる。彼と付き合ってからは特に、その聲を拾うのが上手くなった。
(このままここで働きたいな。仕事はまだまだだけど、人間関係でも困るようなことはないし。でも、もしまた容師に戻るなら、こうはいかないよね……)
ずるい考えが過った思考が、それでいいんじゃないか……と囁く。
ここで働き続ければ、常に諏訪くんの近くにいられる。人間関係でも、きっと不安や恐怖をじることはない。もしそんなことがあれば、彼が助けてくれるだろう。
容師という仕事に大きな未練はあるけれど、またあんな恐怖を味わうのが怖い。
逃げ腰で卑怯な気持ちだとしても、この優しい場所にいたいと思い始めるようになっていることに気づいてしまった。
いくらは盲目とはいえども、今の環境に甘んじていてはいけない。わかっているし、こんな風に逃げ道を選ぼうとするなんて私らしくない。
容師を辭めるか悩んでいたときには、もっと苦しい中で努力できていた。それが今はどうだろう。甘く優しくされすぎたせいか、そこに寄りかかる癖がついている。
嫌というほどに理解し、これではいけないと思うのに……。どうしてもここから抜け出す勇気が持てない。
そんな後ろ向きな思考を抱えたまま終業時刻を迎える頃、鵜崎副社長が慌てた様子でやってきた。
「先日の『ムラノ工業』のシステムトラブル、児嶋(こじま)くんが擔當したよね?」
ひとりのエンジニアに問いかけた副社長の聲で、周囲の空気が一気に強張った。
「は、はい。なにかありましたか?」
「この間と同じパターンで工場のシステムがダウンして、製造ラインが止まったらしいんだ。社長のところに、村野(むらの)社長直々に『どうなってるんだ』って電話がってる」
ムラノ工業は、主にエアコンなどに使用する部品を取り扱っている會社だ。付き合いはまだ二年ほどで、工場の製造ラインの報システムをうちが構築したはず。
「でも、あれは急激な負荷が原因だったので、復舊作業だけで問題なかったですし、その件についても説明してますが……」
「そうだとしても、半月も経たずにこうなったんじゃ――」
「タケ! 俺、ちょっと行ってくる」
「えっ なんでお前が 翔は他の業務があるだろ! 行くなら俺が――」
「いいって。こういうときは社長が出ていった方が丸く収まるし」
慌ただしくやってきた諏訪くんの後ろから、篠原さんもついてきている。ふたりを見て、鵜崎副社長が眉を顰めた。
「でも、お前は先週も他の取引先の対応に出てただろ」
「あっちもちゃんとやるし、村野社長なら俺が対応した方が納得してくれるよ」
諏訪くんはさらっと言い切り、児嶋さんに「児嶋くんも一緒に來れる?」と尋ねた。
青い顔で外出準備を始めた児嶋さんに、諏訪くんが「大丈夫だから」と聲をかけている。副社長は諦めたように息を吐き、慌ただしく出ていった三人の背中を見送った。
「大丈夫かしら。村野社長は気難しい方だし」
ぽつりと呟いた木野さんを見ると、眉を寄せている。
私が気をまなくても、諏訪くんなら上手く乗り切るだろう。そう思う反面、彼がなにかつらい目に遭わないかと不安になる。
けれど、私には無事にトラブルが解決するのを祈ることしかできなかった。
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