《不良の俺、異世界で召喚獣になる》4章10話

「だ、ダメですよアバンさん!相手は『忌箱パンドラ』ですよ?!アバンさんの『サイクロプス』では―――」

「無能は黙ってろ。大人しくそこのの人と一緒に下がって……いや、尾巻いて逃げてろ。巻・き・込・む・かも知れないからな」

シッシッと鬱陶うっとうしそうに手を振り、アバンがガルドルを睨み付ける。

リリアナはアバンの事が苦手なのか、大人しく言う事を聞いて、シャーロットと一緒にアバンの背後へと隠れた。

「……よう。久しぶりだな、ガルドル」

「アバン君……ひ、久しぶりだね」

「お前……契約していた『ブルーフェアリー』はどうしたんだ?」

「『ブルーフェアリー』……?……そういえば、ガルドルさん……」

そう。ガルドルは……『妖族フェアリー』の初級召喚獣である『ブルーフェアリー』と契約していた。

だが……『忌箱パンドラ』はいるが、『ブルーフェアリー』の姿は見當たらない。

「ああ、うん……契約破棄したよ」

「……へぇ、あんなに可がってたのにか?」

「………………僕が落ちこぼれだって言われてたのは、『ブルーフェアリー』が弱かったからさ。だから、契約破棄するのは、當然だよ」

忌箱パンドラ』のに隠れるガルドル―――その眼に、狂気が宿っている。

穏やかな雰囲気は消え、強者の覚を知ってしまったその姿は……普段のガルドルとは、似ても似つかない。

「……はん。『神族デウスロード』と契約して、し頭が狂っちまったのか?」

「……なんだって?」

「力を得るために相棒を手放し、その力で何をするかと思えば……卒業式をメチャクチャにしやがって……なあオイ、僕はかにキレてるからな?」

何を言ってるんだ。アバンの『サイクロプス』が、ガルドルの『忌箱パンドラ』に勝てるわけないだろう。

舐めたように薄ら笑いを浮かべ、ガルドルがそう言おうと口を開きかけ―――アバンの放つ鬼気をじて、ガルドルが怯えたように口を閉じる。

ガルドルの前に立つミーシャも、異様な気配をじたのか、眉を寄せた。

「……『死霊族アンデッド』の気配……それも、中級召喚獣とか上級召喚獣とかじゃない……へー。ただ生意気なだけかと思ってたけど、なかなか良い召喚獣と契約してるじゃーん」

「まあ、でないとこんな大口は叩けないだろ」

「あ、アバン、さん……?」

「まだいたのか無能。もうどうなっても責任は取れないからな?……『命令 戻ってこい』」

アバンの命令に従い、『サイクロプス』がこちらに走ってくる。

ズシンズシンと揺れる迷宮……そんな事は無視して、アバンがミーシャと向き合った。

「―――來い。『死霊族アンデッド』、『吸鬼ヴァンパイア』のレテイン」

―――――――――――――――――――――――――

「……………」

「んァ?どォしたんだアルマァ?急にしかめっ面になりやがってよォ」

迷宮を歩いていたアルマが、ピタリと固まった。

らしい顔が歪み、眉間にしわを寄せ、心底不愉快そうに牙を噛み鳴らす。

普段の穏やかなアルマからは想像もできない表だ。

「いえ………………何でもないですよぉ……まさか、そんなはず……ないです、からねぇ……」

「んだよオイアルマァ、なんかあるんなら言っとけェ」

「………………『吸鬼ヴァンパイア』がいるような気がしますぅ……ボクじゃない、『吸鬼ヴァンパイア』の気配が……」

「あァ?……けどよォ、『吸鬼ヴァンパイア』はこの前サリスがぶっ殺しまくっただろォ?」

「キョーガもですよぉ?なんで責任をサリスになすり付けてるんですぅ?」

鋭い指摘に、キョーガが肩を竦すくめ―――すぐに話を戻した。

「んな事ァどうでもいいだろォ……んでェ、その気配は確かなのかァ?」

「どうでもよくないですよぉ?今殘されている『吸鬼ヴァンパイア』の數、わかってますぅ?ボクとお父さんとお祖父さんだけなんですよぉ?」

「まァ……そォだなァ」

「はぁ……悪いと思ってるなら、ボクが子孫を殘すのに協力してくださいよぉ?家族で子孫を作るのは、さすがに問題がありますからねぇ」

「はいはいわかったわかったァ……」

雑に返事をするキョーガが、とんでもない弾発言を投下する。

自分が何を言ったのかを理解していないのか、キョーガが表を変える事なく『お前との子孫を殘す』と宣言した。

數秒固まったアルマが……ボッと顔を真っ赤に染める。

パクパクと口を開閉させ、キョーガの腕に抱きつき、興したように聲を上げた。

「とっ……取った!言質げんち取りましたよぉ!」

「騒がしィやつだなァ……ちっとは落ち著けェ。リリアナを探すぞォ」

アルマの腕を振り払い、素早く歩き始めるキョーガ―――その顔は、ほんのしだが赤くなっている。どうやら、自分の言った事を理解しているらしい。

それに気づいたアルマがニターと妖艶に笑い、再びキョーガの腕に抱きついた。

「……『吸鬼ヴァンパイア』がいる気がするっつってたがァ、なんでそんなのわかんだァ?」

「同種族の気配は、何となくじる事ができるんですよぉ……ほら、この前お父さんがボクの所に來たじゃないですぅ?あれはたぶん、ボクの気配を探って來たんだと思いますぅ……」

……なるほど。この前レテインがリリアナの家に來た時、どうやってアルマの存在を知ったんだ?と気になっていたのだが……そういう事か。

納得したように頷き、キョーガが思い付いたように問い掛けた。

「なァオイ、その気配はどっからじんだァ?」

「気配、ですぅ?……そこまで遠くはないですけどぉ……まあ、走って5分ってじですぅ」

「……んじゃァ、行くぞォ」

「え……えっ?!い、行くんですぅ?!ボクは嫌ですよぉ!だってこの気配、もしかしたら……」

摑んだ腕を振り回し、本気で嫌そうに拒絶する。

「……なんでそこまで嫌がるんだァ?」

「だ、だって!このじ……お父さんかも知れないですよぉ!もうボク、お父さんには會いたくないですぅ!というか、なんで行こうとするんですぅ?!」

「何となくだァ……ちっとでもリリアナがいる可能があんならァ、そこに行くぜェ」

「……はぁ……ボクとの子どもを作るって言ったそばから、他のの所に行こうとするなんて……」

「なんかその言い方だとォ、俺が悪者みてェじゃねェかァ?」

キョーガの問いかけには答えず、すねたように口を尖らせ、咎めるようにキョーガを見つめる。

無言の圧力に耐えかねたのか、バツが悪そうに舌打ちした。

「………………行くぞォ。とりあえずゥ、リリアナを探さねェとォ」

「まあ、確かにそうですねぇ……はぁ……行きますぅ?」

「あァ……アルマァ、案してくれやァ」

―――――――――――――――――――――――――

「ま、マリー殿……本當にこっちであってるでありますか……?」

「……【解答】 當機には道を知る手段がない。故ゆえに、どの道の先にリリアナたちがいるかはわからない」

「……つまり、迷子って事でありますよね?」

「…………………………………………【肯定】」

迷宮を歩く、2つの小さな影。

右腕の大きな銃を構える金髪が無表のまま先導し、その後ろを褐白髪のがイソイソと追いかける。

と、いきなりマリーが歩みを止めた。

銃を構えて辺りを見回し……モンスターが近づいてきていると思ったシャルアーラが、慌ててマリーの背後に隠れる。

「……【知】 こちらに接近する、強者の気配を知」

「も、モンスターでありますか?!」

「【否定】 モンスターではない……これは……」

曲がり角に銃口を向けていたマリーが、いきなり銃を下ろした。

長い金髪を揺らしながら曲がり角へ進み……シャルアーラがその後を追い掛ける。

「―――ガルルルル……!」

「うぎゃああああ?!も、モンス―――あれ?」

「グルルルル……あは~♪よ~やく見つけたよ~♪」

獣のように低く唸る―――サリスだ。

を返りで染めたその姿は……『地獄番犬ケルベロス』と呼ぶに相応ふさわしい。

「ね~♪リリちゃん見てないよね~?」

「見てないであります……あれ?……サリス殿は1人でありますか?アルマ殿やリリアナ殿は……?」

「ん~♪……それが、リリちゃんが消えちゃってね~♪今、探してるの~♪」

「【理解】 なるほど……マスターは?」

「アルちゃんと一緒に行してるよ~♪……とりあえず、リリちゃんを見つけないとね~♪」

そう言って、サリスがその場を立ち去ろうとして―――固まった。

どうしたのか?と、シャルアーラがサリスに近づこうとして……隣に立っているマリーも固まっている事に気づく。

遠くに眼を向け、何かに気づいたサリスが、地獄の底から響くような聲でマリーに問い掛けた。

「……ね~マリーちゃん。このじ……わかるよね~?」

「【肯定】 ……このじは、まさか……」

「えっ、え?ど、どうかしたでありますか?自分にも教えてほしいであります」

ニコニコと笑みを浮かべるサリス……だが、その笑顔は、いつもの明るい笑みではなく、暗く濁ったような黒い笑みだ。

そんなサリスの姿に悪寒をじながらも、シャルアーラが勇気を振り絞って問いかけ……直後に返された答えに、呆然とした。

「……アルちゃんのお父さん……レテイン・エクスプロードが現れた……かな」

「エクスプロード……って、『蒼き眼の吸鬼』でありますか?!え?という事は、アルマ殿は―――」

「歴代最強の『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』、アルマクス・エクスプロード……それがアルちゃんだよ~」

明あかされた事実に、シャルアーラは息を呑んだ。

―――歴代最強の『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』、アルマクス・エクスプロード。

その実力と才能は、それまで最強と呼ばれていた『アスラード』という『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』すらも凌駕りょうがすると言う。

が殘した戦果は、どれもこれも耳を疑うような事ばかりで……なんでも、20年前に『三大竜族キング・ドラゴニア』の『厄災竜ディザスター』を瀕死に追い込んだり、『死霊族アンデッド』を目の敵かたきにしている『霊族スピリット』の『獄炎霊サラマンダー』を単獨で撃退したり……その実力は、『巨人族ギガント』の王である『始祖巨人ユミル』や、『神族デウスロード』ですら恐怖をじるほどだとか。

そんなデタラメ中ちゅうのデタラメな存在……それがアルマクス・エクスプロードという最強の『紅眼吸鬼ヴァンパイア・ロード』。

その正が、まさか1つ屋の下で一緒に暮らしているアルマだったなんて……と、シャルアーラはぶっ倒れそうなほどに驚いていたりする。

「……ん~……?」

「サリス殿?どうかしたでありますか?」

「し~……ちょっと靜かにしててね~……」

黒い笑みを消し、を低くして通路の先を睨む。

と、何かに気づいたのか、サリスが先ほどまでの黒い笑みではなく、明るい笑みを浮かべた。

「……あは~♪……見~つけたぁ……♪」

「【知】 レテインの気配の近くに、リリアナの気配を確認」

「え?……リリアナ殿がどこにいるか、わかったのでありますか?」

「うんっ♪……あの『吸鬼ヴァンパイア』のおかげってのが、ちょ~っとムカつくけどね~♪」

サリスが手足を地面に付け、マリーがシャルアーラを抱え上げた。

「それじゃ、行こっか♪」

「【了解】」

「は、はっ!了解であります!」

四足のように駆け、サリスが迷宮の奧へと消えていく。

ボッと加速し、マリーがシャルアーラを抱えたまま、その後を追い掛けた。

―――決著まで、殘りわずか。

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