《ロング・ロング・ラブ・ストーリーズ 4度目のさようなら that had occurred during the 172 years》第5章 1973年 プラス10 - 始まりから10年後 〜 1 覚醒、そして再會(3)

1 覚醒、そして再會(3)

最初は、名前を口にするのもひと苦労で、顎をかすだけでゴキゴキ音が鳴った。

九年間はあまりに長い。正一の七回忌もとっくに過ぎて、この時代の剛志は二十六歳になっている。正確に言えば、八年間と五ヶ月足らず。そんな時間眠ったままで、知らぬ間に四十六歳になってしまった。

正直言ってショックだった。一気に歳を取ったことが、この時代に來てしまった以上に心にズシンとのしかかる。

そうだと言って、意気消沈している余裕はない。この世界ではひとりぼっち。頼る人などないのだから、何から何まで自分一人でやらねばならない。

だから、剛志は聞いたのだ。

「あの、わたしの住んでいたアパートは、今、どうなっていますでしょうか?」

「えっと、詳しいことはわかりませんが、どなたかが引き払われたって、聞いてますよ」

「どなたかって?」

「いや、すみません。わたしはそこまでは知らなくて……」

借りていたアパートは引き払われ、さらに病院の費用一切を、どこかの誰かが払い続けていると言う。

――院費から、俺に関わる費用の九年分って、いったいどのくらいになるんだろうか?

剛志がそんな疑問を口にすると、擔當醫は待ってましたとばかりに言ってきた。

「えっと、それなんですが、この名刺の方が、明日、あなたを訪ねていらっしゃいます。費用についてはすべて、この方に聞いていただけますか?」

差し出された名刺をひと目見て、剛志の記憶は一気に二十八年前に舞い戻った。

――弁護士 石川英輔 神仙総合法律事務所……。

間違いなかった。住所や電話番號は忘れたが、事務所の名前などは忘れようもない。

元いた時代で母親が倒れた時、病室で見知らぬ男に渡されたものときっと同じだ。

何か困ったことがあったら連絡しろと、あの男はこれと同じ名刺を差し出してきた。

――あの時の弁護士が、どうして……?

顔を思い出そうとするが、大柄だったスーツ姿と、膝の上にあった洋風の帽子しか浮かんでこない。

あれから、剛志にとっては二十八年が経っている。

しかしこの時代の流れでは、たった八年という歳月だ。あの時、男と會った方の剛志は自分ではないし、この時代の剛志は二十六歳で別にいる。

なのになぜ、男は今になって自分の前に現れるのか?

もし本當に、男が同じ人であるなら、それこそ剛志の時間移について、

――知っている、ということにならないか?

いくら考えても答えなど出るはずもなく、あとは男の現れるのを待つしかない。

そうして次の日、男は本當にやって來た。病室り口に立つ男を目にした瞬間、剛志はまさに大聲をあげそうになったのだ。

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